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――理解している側

 職員室へ向かう廊下。


 田所は、正直なところ頭が追いついていなかった。

 異様な保護者。

 完璧な書類。

 否定できない立場。


 その少し後ろを、天羅萃華が楽しそうに歩いている。


 ――この人、本当に保護者なのか?


 そんな疑問が消えないまま、

 前方から一人の生徒が歩いてくるのが見えた。


 恒一だった。


 こちらに気づくと、彼は一瞬足を止め、

 次の瞬間、深く頭を下げた。


「申し訳ありません」


 田所は、思わず立ち止まる。


「……え?」


「私の身内が、校内でご迷惑をおかけします」


 淡々とした声。

 だが、言葉の選び方が明らかにおかしい。


 高校生のそれではない。


「……身内?」


 問い返すと、恒一は顔を上げた。


「はい」


 迷いがない。


「善意で動く人間ですが、

 善意の方向が、一般的ではありません」


 田所のこめかみが、ぴくりと引きつった。


 後ろで萃華が、くすっと笑う。


「ひどい言い方ね」


「事実です」


 即答だった。


 田所は、教育者としての語彙ごいを総動員しようとして、結局、喉の奥でそれらを飲み込んだ。。


 叱るべきか。

 注意すべきか。

 それとも――。


 どれも、違う気がした。


「……君が謝ることじゃないだろう」


 ようやく、そう言う。


 恒一は、首を横に振った。


「理解しているのは、私です」


 短く、しかしはっきりと。


「先生方に、説明が必要な状況を作った責任はあります」


 田所は、その、何百年もの風雪を耐え忍んできた大樹のような目を見てしまった。


 逃げない目。

 誤魔化さない目。


 ――この子は、分かっている。


 自分がどれだけ異質な環境にいるか。

 そして、それがどれほど周囲に負担をかけるか。


「……分かった」


 田所は、深く息を吐いた。


「とりあえず、話をしよう」


「はい」


 萃華が、にこやかに手を挙げる。


「さて、三者面談おはなしを始めましょうか?」


 田所は、天井を仰ぎたい衝動を必死に抑えた。


 ――今日、絶対に長くなる。


 そう確信しながら、

 職員室の扉を開けた。


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