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地仙譚~百年を生きる仙人は現代で怪異を祓う~  作者: taka
第8章 越えてはならない線
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逃げ場のない場所

 倉庫の床は、思ったより冷たかった。


 亮は、仰向けのまま天井を見ていた。


 身体は、もう動かせる。


 拘束は、解かれている。


 それでも、起き上がろうとは思えなかった。


 息を吸うたび、胸の奥が重い。


 ——何だったんだ、今の。


 声。

 圧。

 自分の中にあった、黒く粘ついたもの。


 全部、一瞬で消えた。


 まるで、最初から存在していなかったみたいに。


 「……」


 亮は、自分の手を見た。


 震えている。


 怖かった。


 誰かに殴られたわけでも、怒鳴られたわけでもない。


 ただ、完全に止められた。


 否定も、罵倒もない。


 それが、一番きつかった。


 足音が近づく。


 亮は、反射的に身構えた。


 だが、何も起きない。


 立花恒一は、少し離れた場所で足を止めていた。


 視線は、亮を見ていない。


 倉庫の中を、確認しているだけだ。


 「……どうして」


 亮の喉から、声が漏れた。


 自分でも、何を聞きたいのか分からない。


 「どうして……」


 恒一は、静かに振り返った。


 初めて、亮を見る。


 その目には、怒りも、軽蔑もなかった。


 ただ、事実を測るような視線。


 「止める理由が、ありました」


 淡々とした声。


 亮は、思わず叫びそうになる。


 理由?


 そんなもの、いくらでもあるだろう。


 でも、それを言われるほど、惨めになる。


 「……俺は」


 亮は、言葉を探す。


 言い訳か、反論か。


 どれも、口に出す前に崩れた。


 恒一は、、亮の影を静かに踏むように一歩近づく。


 距離は、近い。


 だが、圧はない。


 「君は、弱い」


 その一言が、落ちた。


 殴られたような、衝撃。


 亮の喉が、ひくりと鳴る。


 「だが」


 恒一は、続けた。


 「壊れてはいない」


 亮は、目を見開いた。


 否定されると思っていた。


 拒絶されると、思っていた。


 「だから」


 恒一の声は、低く、はっきりしている。


 「立ち直る義務があります」


 逃げ道という逃げ道が、冷徹な鋼の音を立てて閉じられた。


 亮は、無意識に首を振る。


 「……ふざけるな」


 弱々しい声。


 「なんで、俺が……」


 「逃げないためです」


 被せるように、恒一が言った。


 「自分から目を逸らさないため」


 「それが、一番卑怯だからです」


 亮の胸が、苦しくなる。


 何かを、言い返したかった。


 でも。


 恒一は、もう答えを用意していると、分かってしまった。


 「今日からです」


 「君は、一からやり直す」


 恒一は、断言した。


 「妖魔のせいにはしない」


 「忘れさせもしない」


 「逃がさない」


 亮は、床に視線を落とした。


 拳を、強く握る。


 怖い。


 逃げたい。


 でも。


 ここで逃げたら、一生、この重さから逃げ続ける。


 恒一は、それを分かっている。


 分かっていて、立たせようとしている。


 「……地獄だな」


 亮が、小さく呟いた。


 恒一は、否定しなかった。


 「ええ」


 短く、それだけ答えた

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