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地仙譚~百年を生きる仙人は現代で怪異を祓う~  作者: taka
第8章 越えてはならない線
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処理

 倉庫の入口が、勢いよく開いた。


 ——ガンッ。


 金属音が反響する。


 亮が振り返るより早く、人影が踏み込んできた。


 立花恒一。


 迷いはない。

 躊躇もない。


 まるで、中で何が起きているかを最初から知っていたかのように。


 亮が声を上げる暇もなかった。


 背後から、制服の襟首——首の後ろを掴まれる。


 次の瞬間。


 足が払われ、身体が宙を切った。


 ——ドンッ。


 床に押さえつけられる。


 関節が、正確な位置で極まる。


 息が詰まり、声が漏れる。


 「……っ、が……!」


 恒一は、亮を見ない。


 表情も変えない。


 ただ、危険物を無力化する手順を、淡々と踏んでいた。


 その手が離れないまま、もう片方で符を取り出す。


 ——その時。


 空気が、歪んだ。


 声が、響く。


 『……漸く、だと思ったのに』


 人の口ではない。


 どこからともなく、倉庫全体に滲む声。


 『見鬼の女を喰えば、

 力を得られたのに』


 『仙骨だ……

 あれほど都合のいい器はない』


 穂乃香の胸が、ひくりと跳ねた。


 ——私、が。


 ——狙われて、いた。


 『邪魔をしたな、仙——』


 言葉は、最後まで続かなかった。


 恒一が、符を一枚、床に叩きつける。


 「——静まれ」


 低く、短い声。


 それだけ。


 符が透き通った光りを放ち、空気が、一瞬で“正される”。


 『——っ!?』


 魍魎の声が、軋み、崩れ、掻き消えた。


 怒りも、未練も、断末魔も残らない。


 処理完了。


 倉庫に、静寂が戻る。


 恒一は、ようやく亮を拘束したまま、立ち上がった。


 それでも、亮の顔は見ない。


 「……っ、な……」


 亮は、何が起きたか理解できていない。


 自分が倒された理由も、何を止められたのかも。


 ただ、身動きが取れない現実だけがある。


 恒一は、短く言った。


 「動くな」


 それだけで、十分だった。


 穂乃香は、床に座り込んだまま、震える指を握りしめていた。


 助かった。


 そう、分かっている。


 でも。


 ——聞いてしまった。


 自分が、

“喰われる対象”だということ。


 知らなければ、楽だったかもしれない。


 でも、もう戻れない。


 恒一は、穂乃香の方を見る。


 その視線は、初めてだ。


 「……大丈夫ですか」


 静かな声。そして自分の上着を脱いで彼女の肩にかける。


 穂乃香は、喉を鳴らし、小さく頷いた。


 「……はい」


 嘘ではなかった。


 怖い。

 でも。


 分かった。


 自分は、守られるだけの存在ではない。


 狙われる理由があり、向き合う必要がある。


 倉庫の外。


 どこかで、結界が、かすかに応えた。


 ——見ている。


 ——だから、終わった。


 恒一は、その合図を受け取るように、符を収めた。

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