処理
倉庫の入口が、勢いよく開いた。
——ガンッ。
金属音が反響する。
亮が振り返るより早く、人影が踏み込んできた。
立花恒一。
迷いはない。
躊躇もない。
まるで、中で何が起きているかを最初から知っていたかのように。
亮が声を上げる暇もなかった。
背後から、制服の襟首——首の後ろを掴まれる。
次の瞬間。
足が払われ、身体が宙を切った。
——ドンッ。
床に押さえつけられる。
関節が、正確な位置で極まる。
息が詰まり、声が漏れる。
「……っ、が……!」
恒一は、亮を見ない。
表情も変えない。
ただ、危険物を無力化する手順を、淡々と踏んでいた。
その手が離れないまま、もう片方で符を取り出す。
——その時。
空気が、歪んだ。
声が、響く。
『……漸く、だと思ったのに』
人の口ではない。
どこからともなく、倉庫全体に滲む声。
『見鬼の女を喰えば、
力を得られたのに』
『仙骨だ……
あれほど都合のいい器はない』
穂乃香の胸が、ひくりと跳ねた。
——私、が。
——狙われて、いた。
『邪魔をしたな、仙——』
言葉は、最後まで続かなかった。
恒一が、符を一枚、床に叩きつける。
「——静まれ」
低く、短い声。
それだけ。
符が透き通った光りを放ち、空気が、一瞬で“正される”。
『——っ!?』
魍魎の声が、軋み、崩れ、掻き消えた。
怒りも、未練も、断末魔も残らない。
処理完了。
倉庫に、静寂が戻る。
恒一は、ようやく亮を拘束したまま、立ち上がった。
それでも、亮の顔は見ない。
「……っ、な……」
亮は、何が起きたか理解できていない。
自分が倒された理由も、何を止められたのかも。
ただ、身動きが取れない現実だけがある。
恒一は、短く言った。
「動くな」
それだけで、十分だった。
穂乃香は、床に座り込んだまま、震える指を握りしめていた。
助かった。
そう、分かっている。
でも。
——聞いてしまった。
自分が、
“喰われる対象”だということ。
知らなければ、楽だったかもしれない。
でも、もう戻れない。
恒一は、穂乃香の方を見る。
その視線は、初めてだ。
「……大丈夫ですか」
静かな声。そして自分の上着を脱いで彼女の肩にかける。
穂乃香は、喉を鳴らし、小さく頷いた。
「……はい」
嘘ではなかった。
怖い。
でも。
分かった。
自分は、守られるだけの存在ではない。
狙われる理由があり、向き合う必要がある。
倉庫の外。
どこかで、結界が、かすかに応えた。
——見ている。
——だから、終わった。
恒一は、その合図を受け取るように、符を収めた。




