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地仙譚~百年を生きる仙人は現代で怪異を祓う~  作者: taka
第一章 はじまりは、夜に滲む
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見えてしまうもの

 最近、夜が怖い。


 理由は分からない。

 ただ、そう感じる。


 帰り道。

 街灯の下を歩いていると、視線が一つ多い気がする。誰かがいるわけじゃない。足音もない。でも、空気が重くなる瞬間がある。


 ――気のせい。


 そう言い聞かせて、何度もやり過ごしてきた。


 だけど、今日は違った。


 角を曲がった先、少し離れた場所に、人影が見えた。

 小柄で、コートを着た少年。年齢は……たぶん、同じくらい。


 なのに。


 胸の奥が、ざわりと揺れた。


 怖い、とは違う。

 危ない、とも少し違う。


 触れてはいけないものが、そこにいる。


 そんな感覚。


 目を凝らしても、はっきりとは見えない。

 輪郭が、わずかに滲んでいる。空気の向こう側に、もう一枚何かが重なっているみたいだった。


 私は息を殺した。


 少年は、こちらを見ていない。

 ただ、何かを確かめるように、足元に視線を落としている。


 その瞬間、風が吹いた。


 強くもなく、冷たくもない。

 でも、確かに流れが変わった。


 重かった空気が、すっと軽くなる。

 胸の奥のざわつきが、嘘みたいに静まった。


 ――今の、なに?


 少年は何もしていないように見える。

 ただ、深く息を吐いて、顔を上げただけだ。


 その横顔を見て、私はさらに混乱した。


 普通だ。

 どう見ても、普通の人。


 怖そうでもない。

 乱暴そうでもない。

 どこか、疲れた大人みたいな目をしているだけ。


 なのに、さっきまで、確かに。


 見えていた。

 いや、「感じていた」。


 少年は歩き出し、私の横を通り過ぎる。

 すれ違いざま、一瞬だけ視線が合った。


 驚いたような顔。

 それから、すぐに視線を柔らかく逸らされる。


 ――見られた。


 なぜか、そう思った。


 ――私が、何かを感じ取ったということを。

 それを、責めもしないし、問いもしない。


 ただ、気づいた。


 少年は角を曲がり、姿を消す。


 残された夜道は、さっきまでと何も変わらない。

 街灯も、音も、風も。


 でも、私の中だけが違っていた。


 理由は分からない。

 名前も、正体も。


 ただ一つだけ、確信に近い感覚が残っている。


 ――あの人は、

 この街にあってはいけないものを、

 ちゃんと見ている。


 それが、怖かった。

 同時に、なぜか少しだけ、安心もしていた。

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