表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/45

静かなざわめき

 教室に入った瞬間、穂乃香は気づいてしまった。


 ——視線が、違う。


 露骨ではない。

 ひそひそ声も、ほとんど聞こえない。


 でも、確実に。


 いつもより、少しだけ視線が集まっている。


 席に着くまでの短い時間で、理由はすぐに分かった。


 立花くんだ。


 すでに自席に座っている。

 姿勢はいつも通りで、特別な様子はない。


 ——でも。


 朝、校門の前で。

 そして、少し手前の角で。


 何人かに、見られていた。


 穂乃香は、鞄を机に掛けながら、内心で小さくため息をついた。


 そりゃ、そうなるよね……。


 登下校を一緒にしていれば、噂にならない方がおかしい。


 「ねえ、穂乃香」


 声を掛けてきたのは、隣の席のひなただった。


 探る、というほど露骨ではない。

 でも、好奇心は隠していない。


 「今朝さ、

 立花と一緒じゃなかった?」


 どくん、と胸が鳴る。


 否定はできない。

 でも、説明も難しい。


 「……うん」


 短く答えると、ひなたは目を丸くした。


 「え、マジ?」


 「いつから?」


 「付き合ってるの?」


 矢継ぎ早。


 穂乃香は、慌てて首を振る。


 「ち、違うよ!

 そういうのじゃなくて……」


 言葉に詰まる。


 ——じゃあ、何なの?


 自分でも、うまく説明できない。


 ひなたは一瞬考えてから、ふっと笑った。


 「なんだ、そっか」


 深追いはしない。


 でも、その笑い方が、少し意味ありげだった。


 前の方の席から、男子たちの声が聞こえる。


 「立花ってさ、

 いつの間にあんなのと……」


 「あんなの、って」


 「いや、地味だけど可愛いじゃん」


 言葉が、耳に刺さる。

 可愛い、なんて。そんなこと、クラスの男子に言われたことなんてないのに。

 穂乃香は、いたたまれなくなって視線を落とした。


 立花くんの方を見る勇気は、まだ出ない。


 でも。


 その立花くんは、こちらを一切見ていなかった。


 黒板を見て、ノートを開いて、いつも通りの準備をしている。


 噂に気づいていないわけじゃない。


 気にしていない。


 その態度が、余計に目立つ。


 授業が始まる。


 教室は静まり返るが、空気のざわめきは消えない。


 穂乃香は、ノートを取りながら、何度も意識が逸れた。


 ——これ、

 立花くんに迷惑、かけてるよね。


 そう思った瞬間。


 前の席の柊くんが、ちらりと振り返った。


 一瞬だけ、目が合う。


 柊くんは、何も言わない。

 ただ、いつもより少しだけ、真剣な顔をしていた。


 ——見てる人は、見てる。


 それが、穂乃香には少しだけ心強かった。


 チャイムが鳴る。


 休み時間。


 教室のざわめきが、一気に大きくなる。


 噂は、もう止まらない。


 でも。


 その中心にいるはずの二人は、まだ一言も言葉を交わしていなかった。


 それが逆に、一番目立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ