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並んで歩く距離

 朝は、いつも通りに来た。


 目覚ましが鳴って、制服に着替えて、家を出る。


 ——なのに。


 玄関を出た瞬間、穂乃香は一度、足を止めた。


 門の外に、立花くんが立っている。


 昨日と同じ制服。

 鞄も、いつも通り。


 ただ、それだけなのに。


 「……おはようございます」


 声が、少しだけ固くなった。


 「おはようございます」


 立花くんは、いつも通りに返す。


 表情も、声の調子も変わらない。


 でも。


 そこにいる理由だけが、決定的に違っていた。


 「……今日から、でしたよね」


 確認するように言うと、立花くんは小さく頷いた。


 「はい。

 当面の間、行き帰りは一緒です」


 “当面”。


 その言葉が、胸に残る。


 短いのか、長いのか。

 それは、まだ分からない。


 二人で歩き出す。


 いつもの通学路。


 住宅街の角。

 横断歩道。

 朝の匂い。


 全部、見慣れたはずなのに、今日は少しだけ違って見える。


 立花くんは、穂乃香の半歩前を歩いていた。


 近すぎず、遠すぎず。


 人とすれ違う時は、さりげなく位置を入れ替える。


 ぶつからないように。

 視線が集まりすぎないように。


 ——自然すぎる。


 それが、少し不思議だった。


 「……慣れてるんですね」


 思わず、口に出た。


 立花くんは、首を傾げる。


 「何に、ですか」


 「……こういう、その……」


 一緒に歩く、とか。


 言葉にしづらくて、穂乃香は視線を落とす。


 立花くんは、少し考えてから答えた。


 「人を、気に掛けることですか」


 「……はい」


 「慣れではありません」


 即答だった。


 「必要だから、そうしているだけです」


 それだけ。


 特別でも、好意でもない。


 なのに。


 その言葉に、胸の奥が少しだけ、軽くなった。


 学校が見えてくる。


 校門の前は、すでに生徒で賑わっていた。


 立花くんは、そこで立ち止まる。


 「ここからは、別行動です」


 当然のように言う。


 「帰りは、同じ場所で待ちます」


 穂乃香は、少しだけ迷ってから、小さく頭を下げた。


 「……ありがとうございます」


 立花くんは、一瞬だけ目を瞬かせ、それから頷いた。


 「どういたしまして」


 それだけで、踵を返す。


 背中が、校門の人混みに紛れていく。


 穂乃香は、その背中を見送った。


 昨日までとは、違う。


 でも。


 不安よりも先に、

「大丈夫かもしれない」という感覚があった。


 それが、

この日常の一番大きな変化だった。

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