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目を覚ます場所
意識が、ゆっくりと浮上してくる。
今度は、はっきりと。
穂乃香は、天井を見ていた。
見慣れない天井。
けれど、病院ではない。
鼻をつく消毒の匂いもなく、機械音もない。
代わりに、古い木材の匂いと、紙の匂いがした。
身体を動かそうとして、思ったよりも楽に動くことに気づく。
掛けられた布団は簡素だが、温かい。
痛みはない。
頭も、はっきりしている。
ただ、少しだけ、だるい。
横を向くと、小さな机と、積まれた紙。
符のようなものが、几帳面にまとめられている。
——ここ、どこだろう。
記憶を辿る。
塾。
帰り道。
甘い匂い。
そして——
背中。
自分を運ぶ、あの背中。
穂乃香は、ゆっくりと息を吐いた。
怖かった、はずなのに、思い出しても、震えは来ない。
それが、少し不思議だった。
襖の向こうで、静かな足音がした。
誰かが、出ていく。玄関の戸が、控えめに閉まる音が聞こえる。
その気配が遠ざかっていくのを、穂乃香は感じ取った。
——あの人だ。
直感的に、そう思った。




