夕暮れの通学路
翌日の放課後。
放課後の空は、もう夕方の色に沈みはじめていた。
校門を出た生徒たちが、いくつもの流れに分かれていく。
駅へ向かう者、部活へ向かう者、友人同士で寄り道の相談をしている者。
そのざわめきも、校舎から少し離れるにつれて、ゆっくりと薄れていった。
穂乃香は鞄の肩紐を指先で直しながら、前を歩く恒一の背を見ていた。
その少し後ろには、清磬がいた。
白い衣は人の多い場所ではさすがに目立つはずなのに、不思議と周囲の視線を滑っていくような静けさがあった。
夕暮れの住宅街は、昼とも夜ともつかない色をしている。
家々の壁はまだ明るいのに、路地の奥にはもう影が溜まりはじめていた。
穂乃香はふと、歩調を緩めた。
何かが引っかかった。
音ではない。
匂いでもない。
視界の端に何かが映ったわけでもない。
ただ、空気の厚みが少し変わった気がした。
胸の奥で、見鬼の感覚がかすかに波立つ。
穂乃香は小さく眉を寄せる。
「……誰かいる」
前を歩いていた恒一の足が止まる。
振り返りはしない。
ただ、立ち止まっただけで周囲の空気が静まる。
清磬もまた足を止めた。
白い瞳が、夕暮れの道の先を静かに見ている。
恒一は数歩だけ前へ出た。
声は低く、落ち着いていた。
「出てこい」
短い一言だった。
住宅街は静かだった。
遠くで車の音がする。
どこかの家の窓から、夕飯の匂いが流れてくる。
それだけだ。
返事はない。
穂乃香は息を浅くしたまま、道の左右を見た。
塀。
街路樹。
電柱。
人の姿は見えない。
けれど、違和感だけは消えなかった。
恒一がわずかに視線を落とす。
その先の路肩に、雨上がりの小さな水たまりが残っていた。
風は吹いていない。
誰も触れていない。
それなのに。
水面が、ひとつ、揺れた。
輪のような波紋が、静かに広がっていく。
穂乃香の肩がわずかに強張る。
恒一の声が、今度は少しだけ低く落ちた。
「……そこか」
夕暮れの光を映した水面が、もう一度だけ揺れた。




