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地仙譚~百年を生きる仙人は現代で怪異を祓う~  作者: taka
第24章 同じ教室、違う世界
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教室の空気

教室の扉を開けると、いつもの空気がそこにあった。


朝の雑談。

椅子を引く音。

窓際で笑い合う声。


まだ担任は来ていないらしく、

教室はのんびりとしたざわめきに包まれている。


穂乃香は自分の席に向かい、鞄を机の横に掛けた。


その時。


「おはよ、穂乃香」


横から声がかかる。


ひなただった。


明るい笑顔で、いつも通りの調子だ。


「おはよう」


穂乃香も小さく頷く。


ひなたは机に肘をつきながら、少し身を乗り出した。


「昨日さ、結局あのドラマ見た?」


「……ドラマ?」


「ほら、月曜のやつ。恋愛の」


「ああ……」


少し考えてから、穂乃香は首を振った。


「見てない」


「えー、面白かったのに」


ひなたは少し残念そうに笑う。


「もうね、主人公がめちゃくちゃ不器用でさ。

好きなのに全然言えないの」


机を軽く叩きながら、ひなたは楽しそうに話す。


「絶対好きなのにさ。

もう見てるこっちが『早く言え!』ってなるの」


その様子を見ながら、穂乃香は静かに相槌を打った。


「そうなんだ」


教室の空気は穏やかだった。


誰かが笑い、

誰かがノートを広げ、

誰かが宿題の答えを見せ合っている。


いつもの朝。


いつもの教室。


けれど。


穂乃香には、その声が少しだけ遠く感じた。


まるで、教室全体の空気が

ほんの少しだけ違う層にあるような。


(……変だな)


ひなたの話は続いている。


「それでさ、最後に――」


言葉が止まる。


ひなたが首を傾げた。


「穂乃香?」


「え?」


「なんかぼーっとしてない?」


「……そう?」


穂乃香は小さく目を瞬く。


「ちょっと疲れてる?」


「ううん、大丈夫」


そう言いながら、穂乃香は教室を見渡した。


クラスメイトたちの声。


笑顔。


雑談。


それは確かにそこにある。


けれど同時に、

その一人一人の感情が、

薄い色のように漂って見える気がした。


楽しさ。

苛立ち。

退屈。


ほんのわずかに、

それが分かる。


(……気のせい?)


穂乃香は目を瞬かせた。


すると、その感覚はすぐに消えた。


ただの教室。


ただの朝。


ひなたが少し心配そうに言う。


「ほんとに大丈夫?」


「うん」


穂乃香は小さく笑った。


「平気」


ひなたは少しだけ安心したように肩をすくめる。


「ならいいけど」


そう言ってから、ふと思い出したように言った。


「そういえばさ」


「ん?」


「今度の文化祭、うちのクラスどうするんだろうね」


周囲の誰かがその話題に反応し、

後ろの席からも声が飛ぶ。


「カフェとかじゃない?」


「またそれ?」


教室に、軽い笑いが広がる。


穂乃香もその中にいる。


同じ教室。

同じ朝。


けれど。


その空気の中で、

穂乃香はほんのわずかに思った。


(……前と、少し違う)


それが何なのかは分からない。


ただ。


ほんの少しだけ。


自分だけが、

この教室から一歩外に立っているような気がした。

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