欠けた数
地図は簡素だった。
人の街を上からなぞるように、結界の痕跡と、宝貝の反応だけを重ねたもの。
恒一は、その上に指を置いていた。
「ここ。それから、ここもだ」
指先が移動するたび、清磬の感覚が追いついてくる。
「……反応が、ない」
清磬の声は淡々としていた。
「昨日までは、確かにあった。弱いが……存在は感じていた」
恒一は頷く。
「俺たちが刈った場所以外にも、消えている」
言葉にすると、数は少ない。
だが、配置としては妙だった。
「整理されているな」
清磬は、地図を見つめる。
無秩序ではない。
逃走でもない。
「……切り捨て」
その言葉は、自然と口をついて出た。
恒一は否定しない。
「弱い所だけが消えている。人任せで、術も雑。宝貝の管理も甘い」
淡々とした分析。
「俺たちが動いたのを見て、盤面を軽くしたんだろう」
清磬は、少し考える。
「……捨てた、というより」
言葉を探す間。
「……選んだ、か」
恒一は、わずかに目を細めた。
「そうだな」
切ったのではない。
残すものを決めただけ。
それができる相手が、まだ盤の奥にいる。
「こちらは、想定内だ」
恒一は地図を畳む。
「弱い所は、もう残っていない。人間側に流れていた術も、一度は止まる」
清磬は、違和感を覚える。
「……だが、終わってはいない」
恒一は短く答えた。
「始まってもいない」
その言葉が、静かに重かった。
清磬は理解する。
自分たちが刈ったのは、“使われていた部分”に過ぎない。
作った者。
流した者。
判断した者。
そのどれにも、まだ触れていない。
「……見られている、か」
清磬の呟きに、恒一は否定しなかった。
「だから、次は慎重に行く」
命令ではない。
方針の共有。
「人間側を守りながら、拾えるものを拾う」
「急がない。だが、止まらない」
清磬は頷く。
盤面は、整理された。
だが、空白が増えただけでもある。
その空白の向こうに、まだ姿を見せない何かがいる。
清磬は、無意識に恒一の近くに立っていた。
距離は近い。
だが、それを問題だとは、まだ思っていない。
ただ――この盤の上に立つなら、ここが一番安全だと感じているだけだった。




