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言わないけど

 昼休み。


 さっきの話題は、もうクラスの空気からは消えていた。


 テレビなんて、そんなものだ。


 一瞬盛り上がって、すぐ次に行く。


 ……はずだった。


「ねえ、穂乃香」


 隣の席から、ひなたが声をかけてくる。


「なに?」


 できるだけ、いつも通りに返す。


 ひなたは、机に肘をついたまま、特に表情も変えずに言った。


「否定しなかったね」


「……え?」


「さっき」


 それだけ。


 説明はいらない、という顔。


「否定、しようと思えばできたでしょ?」


 私は、言葉に詰まる。


 思い出すのは、昨日の夜。


 歩幅。

 距離。

 並んでいた感覚。


「……別に」


 曖昧な返事しか出てこない。


 ひなたは、ふうん、と小さく息を吐いた。


「まあ、いいけど」


 それで終わり。


 責めない。決めつけない。


 でも。


「大事なもの取られそうな顔、してたからさ」


 ぽつりと。


 軽い調子で、でも逃げ場のない一言。


「……」


 私は、何も言い返せなかった。


 ひなたは、それ以上何も言わず、購買の話題に切り替える。


 その背中を見ながら、胸の奥が、じわっと痛んだ。


 ――大事なもの?


 分からない。


 分からないけど、否定できなかった自分がいる。


 *


 その頃。


 学校の外れ、日陰の多い場所。


 清磬は、一人で立っていた。


 紙のような符が、静かに揺れている。


 その中に、人の話し声が混じっていた。


「銀座で映ってたんだって」


「カップルみたいだったってさ」


 断片的な言葉。


 誰の名前も出ていない。

 でも。


 映像。

 銀座。

 夜。


 条件は、揃いすぎていた。


 清磬は、眉をひそめる。


 胸の奥が、すっと冷える。


 理由は、説明できない。


 説明できないけれど。


 ――不愉快だ。


 その感情だけは、はっきりしていた。


 符が、きゅっと縮む。


 無意識の反応。


 清磬は、自分の胸に手を当てる。


「……?」


 違和感。


 知らない感情。


 でも。


 確かに、嫌だった。


 理由も分からないまま。

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