聞いてしまったこと
沈黙が、少しだけ重くなった。
夜景は相変わらず綺麗なのに、さっきよりも、遠く感じる。
このまま黙っているのが正解なのか、分からなくなって――私は、思わず話題を変えていた。
「……じゃあ」
一度、息を吸う。
「萃華さんと……その頃から、一緒に?」
聞いていいのか分からなかった。でも、口に出してしまった。
一瞬、恒一の動きが止まる。
驚いたような顔。それから、困ったような表情。
すぐに、苦笑に変わった。
「誤解させたなら、すまない」
そう前置きしてから、静かに説明してくれる。
「萃華とは、血の繋がりはない」
短く、はっきりと。
「両親を失った俺を、師父……いや、師匠が拾って育ててくれた」
一瞬、言葉を選ぶような間があった。
「その一門での師姉だ。つまり、姉弟子だな」
淡々とした説明。
でも、ただの事実以上のものが、その声に滲んでいる気がした。
「……そうなんだ」
相槌を打ちながら、胸の奥が少しだけ落ち着く。
理由は、自分でもよく分からない。
それでも。
「でも」
思わず、続けてしまう。
「仲、良いよね?」
聞いてから、少しだけ後悔した。
踏み込みすぎたかもしれない。
恒一は、眉間を軽く揉む。
それから、短く答えた。
「……付き合いは長いからな」
それだけ。
それ以上、説明はしない。
視線は、テーブルの向こう。
夜景でも、私でもない場所。
その横顔には、言葉にしきれない何かが浮かんでいるようだった。
私は、それ以上聞かなかった。
聞けなかった、のかもしれない。
さっきよりも、空気は少し柔らいでいる。
でも、確かに何かを知ってしまった感覚が、胸の奥に残っていた。
知らなかった距離。
踏み込んでしまった一歩。
それが正しかったのかは、まだ分からない。
ただ、戻れなくなった気はしていた。




