間
次の日も、特別なことは起きなかった。
朝、いつも通りに家を出て、学校に行って、授業を受ける。
ひなたは元気で、クラスも平和で、昨日のことを引きずっている人はいない。
放課後。
昇降口で靴を履き替えていると、恒一の姿が見えた。
「……あ」
思わず、声が漏れる。
恒一は、私に気づいて、軽く手を上げた。
「一緒に帰るか?」
その言葉に、胸の奥が、少しだけ軽くなる。
「うん」
短く答える。
少し遅れて、清磬が合流した。
三人になる。
昨日と、同じ構図。
……のはずだった。
歩き出してすぐ、私は気づく。
恒一が、ほんのわずかに、位置を変えている。
昨日は、私と清磬の間に明確な“線”はなかった。
今日は。
恒一が、私と清磬の中間にいる。
意図的じゃない。
避けるようでもない。
ただ、自然に、そうなっている。
「……」
清磬は、何も言わない。
表情も、変わらない。
でも、歩幅を合わせ直したのが分かった。
恒一は、それにも気づいていない。
話題は、他愛ないことだ。
明日の天気。
提出物。
学校の行事。
どれも、誰が隣にいなくても成立する会話。
それなのに。
私は、この“間”に意味を感じてしまう。
誰かが決めたわけじゃない。
話し合ったわけでもない。
でも、配置が変わった。
恒一は、私と清磬のどちらにも偏らない。
そして、どちらも遠ざけない。
それが、今の恒一の選び方なのだと、なぜか分かった。
清磬が、一瞬だけ足を止める。
信号だ。
恒一は、立ち止まり、私の方を見て言う。
「危ないから、こっち」
私の立っている側。
何気ない一言。
何気ない仕草。
でも、私の心臓は、少しだけ跳ねた。
清磬は、信号の向こう側で立っている。
距離は、ほんの一歩分。
けれど、昨日とは違う。
青に変わり、三人で歩き出す。
配置は、崩れない。
恒一は、真ん中にいる。
守るようでも、隔てるようでもない。
ただ、間を取っている。
私は、その背中を見ながら思う。
——この人は、誰かを選ばない代わりに、誰かが壊れる位置にも立たない。
だからこそ、余計に、苦しい。
それでも。
私は、この距離を拒まなかった。
清磬も、何も言わなかった。
三人の歩幅は、そのまま、家路へと続いていった。




