未定義
帰路は、想定より静かだった。
三人で並んで歩いている。
その事実を、清磬は何度か認識し直した。
効率は、悪くない。
調査の話は出ない。
不要な情報交換もない。
問題はない。
なのに。
清磬の意識は、一定の間隔で前方から逸れていた。
視線が、恒一と、少女の位置関係を捉える。
肩が触れるほど近くはない。
だが、離れてもいない。
自然な距離。
不自然さは、ない。
——ない、はずだ。
「……」
清磬は、自分の歩幅を確認する。
速くも、遅くもない。
合わせているわけでもない。
だが、結果として自分は恒一の“反対側”に位置している。
それに、意味はない。
ただの配置だ。
清磬は、そう処理する。
処理しようとして、わずかに引っかかる。
理由が、出てこない。
これまでなら、即座に言語化できた。
効率。
判断速度。
視認性。
どれにも当てはまらない。
清磬は、歩きながら考える。
自分は、この配置を「不利」だとは思っていない。
だから、移動する必要はない。
……ないのに。
胸の奥に、微細なノイズが走る。
不快ではない。
危険でもない。
ただ、未定義。
それが、最も近い分類だった。
清磬は、視線を前に戻す。
少女――秋月穂乃香は、何も言わずに歩いている。
表情は、落ち着いている。
だが、どこか硬い。
その硬さが、なぜか目につく。
観測対象として、特別な変化はない。
それなのに。
清磬は、一瞬だけ思った。
——この配置は、固定されない。
根拠はない。
予測とも言えない。
ただの、感覚。
清磬は、即座にそれを切り捨てる。
感覚は、判断材料にならない。
なるべきではない。
清磬は、歩調を変えない。
だが、その日の帰路を終えるまで、一度も「最適解」を確定できなかった。
それは、清磬にとって珍しいことだった。
——次は、確認が必要だ。
何を、とは決めない。
決められない。
ただ、この未定義を放置するのは、効率が悪い。
清磬は、そう結論づける。
結論づけたはずなのに。
胸の奥のノイズは、消えなかった。




