半歩
放課後の廊下は、少しだけ騒がしかった。
部活に向かう人。
帰り支度をする人。
誰かを待っている人。
私は、いつもと同じように歩いている。
……はずだった。
でも、足が止まる。
視線の先。
恒一と、清磬。
並んで話している。
距離は近い。
でも、それはもう“いつもの光景”になりつつあった。
胸が、きゅっと縮む。
——やめよう。
そう思った。
見ない方がいい。
考えない方がいい。
私は、ずっとそうしてきた。
でも。
今日は、違った。
ひなたの言葉が、頭に残っている。
言葉にしない方が、ずっとズルいもん。
私は、深く息を吸う。
ほんの、半歩。
それだけ、前に出る。
声をかけるつもりはない。
会話に入るつもりもない。
ただ、同じ空間に立つ。
それだけ。
恒一が、先に気づいた。
「……どうした?」
いつも通りの声。
清磬も、こちらを見る。
感情の読めない視線。
「えっと……」
一瞬、言葉に詰まる。
ここで何かを言えば、踏み込みすぎる気がした。
だから、私は言う。
「一緒に、帰る?」
それだけ。
誘いでも、主張でもない。
ただの確認。
恒一は、少しだけ間を置いて、頷いた。
「ああ」
それだけの返事。
清磬は、何も言わない。
けれど、一瞬だけ、視線が私と恒一の間を往復した。
何を思ったのかは、分からない。
私は、それ以上踏み込まない。
でも。
引き下がらない。
恒一の隣。
清磬の隣。
そのどちらでもなく、同じ帰り道に立った。
それだけで、胸の奥のざわめきが、ほんの少しだけ静まった。
これは、勝ちでも奪取でもない。
ただの、半歩。
でも。
私はもう、自分の居場所を“諦めて”はいなかった。




