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ひらがなの刃
「ねえ、穂乃香」
放課後、ひなたは何気ない声で言った。
「最近さ」
「……うん?」
「ちょっと、顔こわいよ」
唐突すぎて、言い返す言葉が出ない。
「え、そんなこと……」
「あるある」
ひなたは、即答する。
「我慢してる顔」
私は、言葉に詰まる。
ひなたは、続ける。
「大事なもの取られた時の顔に、
ちょっと似てる」
「……」
心臓が、跳ねた。
「別に、
取られたわけじゃないんだけどさ」
ひなたは、軽い調子のまま。
「でも、
“あった場所”が変わると、
しんどいんだよね」
ひなたは、肩をすくめる。
「それ」
「ズルいって思っても、
いいと思うよ」
私は、何も言えなかった。
ひなたは、笑う。
「言葉にしない方が、
ずっとズルいもん」
その一言が、胸の奥に、静かに刺さった。
私は、やっと分かった気がした。
自分が否定していたのは、感情じゃない。
欲しさだ。




