位置のずれ
最近、静かだ。
倒れる人の噂も聞かないし、校内でざわつく話題も減った。
ひなたは、もう完全に元気だ。
いつも通り笑って、
いつも通りくだらない話をする。
それが、少しだけ救いだった。
でも。
静かになった分、別のことが目につくようになった。
恒一と、清磬。
距離が、近い。
触れているわけじゃない。
声を潜めているわけでもない。
ただ、話す時の間。
視線を向ける方向。
確認の仕方。
それが、私の知らない速度で噛み合っている。
「……」
私は、何度か口を開きかけて、やめた。
何を聞くつもりだったのか、自分でも分からない。
聞いたところで、答えが返ってくるとも思えなかった。
恒一は、変わらない。
いつも通り、落ち着いていて、いつも通り、必要なことだけを言う。
清磬も、変わらない。
感情を見せないし、表情もほとんど動かない。
なのに。
二人が並ぶと、そこだけ空気が違う。
私が一歩近づくと、自然と話が途切れる。
意図しているわけじゃない。
分かっている。
それでも、胸の奥に、引っかかる。
「……別に」
小さく呟く。
誰にも聞こえない声。
私は、恒一に何かを求めているわけじゃない。
そう、思っている。
でも。
気づいてしまった。
あの夜から、私は“隣”を失ったのだと。
奪われたわけじゃない。
拒まれたわけでもない。
ただ、別の場所ができただけ。
それが、一番、言い訳ができない形だった。
授業の合間、窓に映った自分の顔を見る。
変わっていない。
眼鏡も、そのまま。
表情も、いつも通り。
なのに、胸の奥だけが、落ち着かない。
理由を考えようとすると、頭が止まる。
考えなくていい。考えるほどのことじゃない。
そう言い聞かせる。
でも。
清磬が、恒一の隣で淡々と話しているのを見ると、どうしても思ってしまう。
——私、今どこにいるんだろう。
部外者。
その言葉が、浮かんで、すぐに打ち消す。
違う。
私は、部外者じゃない。
……ただ、関係の形が変わっただけ。
それを、まだ受け入れられていないだけ。
私は、視線を落とす。
机の上のノートには、授業の文字が並んでいる。
ちゃんと書けている。
ちゃんと理解もしている。
日常は、崩れていない。
だから、これ以上、踏み込まない。
踏み込んだら、何かが壊れる気がするから。
私は、自分の居場所を探すのを、一旦、やめた。
見つけられないのが、分かってしまったから。




