残滓
夜は、静かだった。
調査対象となっていた公園は、もう何の気配も残していない。
陰気は消え、地脈の流れも正常に戻っている。
清磬は、その中央に立っていた。
――完了。
本来なら、それで終わるはずだった。
足元に、何もない。
宝貝の残骸も、術式の痕跡も、生命力の歪みも。
すべて、処理された。
正しい結果だ。
清磬は、そう判断している。
「……」
それでも、視線が落ちる。
意味のない場所に。
ここで、人間が倒れた。
ここで、力が奪われた。
だが。
今は、何もない。
それが、少しだけ不自然に感じられた。
清磬は、自分の手を見る。
白く、小さい。
この手で、直接処理をしたわけではない。
裁定を下したのは恒一だ。
自分は、それを是としただけ。
合理的だった。
遅らせれば、被害が広がる。
封印すれば、管理コストが発生する。
再発の可能性も残る。
最適解は、一つ。
清磬は、それを選んだ。
迷いは、なかった。
……はずだった。
「後味、か」
自分でも驚くほど、小さな声が漏れた。
言葉にした瞬間、違和感がはっきりする。
後味。
それは、感情を持つ者が使う言葉だ。
清磬は、首を振る。
自分には、関係ない。
これは、単なる残滓だ。
判断の余韻。
処理の名残。
そう、分類しようとする。
だが。
ひとつだけ、計算に入っていなかったものがある。
——守られた人間たち。
彼らは、何も知らない。
何も失っていない。
そして、何も覚えていない。
それは、成功だ。
清磬は、そう理解している。
だが同時に。
あの場で倒れていた少女の顔が、一瞬、脳裏をよぎった。
怯えも、理解もない。
ただ、体調が悪いと感じていただけの顔。
清磬は、眉を寄せる。
その映像は、不要な情報だ。
記録すべきではない。
なのに、消えない。
「……非効率だな」
自分に言い聞かせる。
今回の件で、自分は一線を越えた。
踏み込んだ。
判断を前に出した。
それは、正しい。
正しいが。
その“正しさ”の中に、微量のノイズが混じっている。
清磬は、空を見上げた。
星は、いつも通りに輝いている。
世界は、平常だ。
異常は、もうない。
それなのに。
清磬は、ほんの一瞬だけ思った。
——次は、もっと早く。
——次は、もっと確実に。
それは、合理の延長に見える。
だが、どこか違う。
清磬は、その違いを、まだ言語化できない。
できないまま、夜の中に立ち尽くしていた。




