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第24話 透明な魔物【インウィディア・廃墟城塞】

「ディア様! お下がりくださいっ! 射撃用意……()ぇぇぇっ!」

「っ!」

 

 城塞の壁上、廊下、宿舎とありとあらゆる場所から透明な魔物へと矢が放たれる。

 リメアは後方に飛び退きながら、横をかすめる矢の先端に奇妙な丸い物体が括り付けられているのを見た。

 

(あれは……何!?)


 集中砲火された数十本の矢は、まるで水面に撃ち込まれた矢の如く、透明な魔物の胴体へ突き刺さるとすぐさま速度を失う。

 2波3波と次々に放たれる矢を、音も立てず次々に体内へ飲み込んでいく透明な魔物。

 体表には傷1つ残っておらず、小さな波紋が体表に広がるだけだった。


(まるでダメージが入ってない! ――っ!?)


 次の瞬間、闇夜に閃光が瞬いた。

 くぐもった爆発音が無数に連鎖し、城塞を揺らす。

 リメアは目を細めながら叫んだ。


「ロトンダッ!?」

 

 魔物の内側で矢先の爆薬が破裂する度、魔物の胴体は風船のように膨らむ。

 しかし次の爆発へ連鎖するよりも早く、膨張は即座に収縮。

 肉片が飛び散る気配はなく、爆風すらその内部に押し留めていた。

 矢は魔物の足元で集中しており、見上げるとロトンダは巨体の頭部付近で揺蕩っている。

 リメアはほっと安心しつつも、元の形へと戻った魔物に警戒を強めた。

 

「あの透明な魔物……ただの水じゃない……!?」


 城塞に動揺の声が広がったのは、ほぼ同時だった。


「バカな……」

「家屋を吹き飛ばす威力の爆弾だぞ!」

「禁則兵器ですら無傷だと!?」


 魔物は焦げた矢の破片を体内に漂わせたまま、まるで何事もなかったかのようにゆっくりと移動を始める。

 向かう先はロトンダを匿っていた塔の脇。

 魔物が壊したのか、塔の半分と城壁もろとも大きく崩れており、城壁の役割を成していない。

 

「絶対に逃がすな!」


 城壁の上からユグルタが叫ぶ。


「っ!」


 次の矢が来る前に、リメアが動いた。

 貯水池を飛び越え、振り上げた拳を魔物の腹部へ叩き込む。


「はぁぁっ!」


 ダポン、と低い水音が響いた。


(お、重い……っ!?)


 腕を突っ込んだ瞬間わかったことがある。

 魔物を構成する水分は、リメアの想像以上に密度が高かった。

 まるで粘着質の泥をかき分けているような感触。

 

「うーんっ……やぁっ!!」


 やっとの思いで腕を振り抜くも、魔物から剥離した水は極々わずか。

 

「えいっ! やっ!」


 先程よりもっと力を込めて殴る蹴るを繰り返しても、結果は変わらない。

 一旦後方へ宙返りして距離を取り、飛びかかる前の位置へと着地する。

 

「な……なんなの、あれ……!」


 戸惑いながらも、リメアは自分の内側へと問いかけた。


(リッキー! あの水を分析して!)

「承知しまシタ、リメア様!」


 胸元から電子音が鳴り響き、リメアの視界に敵のデータが表示されていく。


「あんなにグネグネ動いてるのに、粘度がほぼ固体に近いなんて……それにこのエーテル反応、まさか……!!」

「おい、大丈夫かリメア!」

「アーヴィ!」


 隣へ駆けつけたアーヴィに、リメアは分析結果をそのまま伝える。


「あの透明な魔物、体にすっごい量のエーテルが詰まってたの!」

「なんだと!?」

「もしかして、もしかするかもだけど、あの透明な魔物……!」

「精霊インウィディアか!?」


 途端にアーヴィの目つきが鋭くなる。

 瞬時に周囲へと目を配り、リメアに耳打ちする。


「ここで捕まえられれば御の字だが、さっきの攻防を見る限り恐らく厳しい。奴が城壁を越えて森に入ったら仕留める。俺の開霊端子は光って目立つからな」

「うん……っ! フェニスのコアに差し込んだあれだね!」

「ああ。見る限りコアは見当たらねぇが、なにかしらの情報は引き出せるはずだ」

「わかった。わたしもできること全部やってみる!」


 話している間にユグルタたちの矢が再び爆発するも、結果は先程と同じ。

 足止めにもならず、魔物はうぞうぞと崩れた城壁へと向かっていく。


「行かせないっ!」


 リメアは大地を蹴飛ばし、そのままの勢いで壁を走り抜ける。

 雨でできた水たまりに着地し、泥水を跳ね上げながら透明な魔物の前に立ちはだかる。


「そっちがエーテルなら、こっちもエーテルだよっ!」


 リメアの髪色が白銀へと変化し、虹色の反応光が腕に集中する。


(叩いて水を吹き飛ばせなくても、腕を突っ込んで中からエーテルを噴射すれば!)


 腕に溜まったエーテルは、普通に噴射すれば星の重力圏を振り切れるほどの量に達した。

 

「えいっ!!」


 リメアは拳を振り上げ、魔物の足元へ腕を突っ込んだ。

 相変わらず重たい水が押し返してきて、肘までしか刺さらない。


「このぉぉぉっ!」

 

 リメアに構わず進む魔物。

 足元がぬかるみ、うまく力が入らない。

 ずりずりと押され、腕も抜けそうになる。


「っ! 壁が!」


 リメアの踵が城壁にコツンと当たる。


「ディア! よせっ! 押しつぶされるぞ!!」


 ユグルタが城壁の上から叫んでいる。

 だが、リメアは笑った。


「へへっ、これで……これで踏ん張れるっ! やぁぁぁぁあああっ!」

 

 ビシリ、と背後の城壁に亀裂が走る。

 少しづつ、少しづつだが腕が魔物の体内に挿し込まれていく。

 そしてとうとう、リメアは指先から肩まで魔物の体内へ沈めることに成功する。


「今だっ!」


 掛け声とともに溜め込んだエーテルを一気に放出しようと、手を広げる。

 指先の極彩がまばゆい光を放った、その時だった。


「うああああああッッ!?!?」


 突然、指先から肩にかけて激痛が走る。

 それはリメアが今まで経験したことのないレベルの痛みだった。

 とっさに腕を抜いた瞬間、エーテルが暴発する。


「ぐううっっ!!」


 今までとは比べ物にならないほどの爆発が起き、反動でリメアは離れた城壁に背中から叩きつけられた。


「リメアッ!!」


 キーンと鈍った鼓膜にアーヴィの悲鳴が聞こえてくる。


「うぐっ」


 なんとかめり込んだ体を壁から引き剥がし、地面に倒れ込む。

 激しい雨に打たれながら、リメアは肘をついたままの状態で顔を上げた。

 もうもうと煙の立つ先、城壁の一角に壁はほとんど残っていない。

 瞬間的にエーテルの出力を絞ったため、周辺一帯が吹き飛ぶ大惨事は回避できた。

 しかし暴発の規模が大きく、結果的に魔物を逃がすための開口部を広げてしまった。

 走ってきたアーヴィに抱き起こされながら、リメアは先ほど魔物に突っ込んだ腕を見る。

 驚いたことに泥で汚れていたものの、腕に目立った外傷は見られない。

 

(な、なんだったの、あの痛みは……!?)


 リメアの体はエーテルが体組織に擬態したものであり、強度は鋼鉄を遥かに凌ぐ。

 城壁に体を打ちつけた程度ではびくともしないし、痛みもさほど感じない。

 だが先ほど感じた激痛は、フェニスと戦った時でさえ感じたことのないレベルだった。

 ぶるぶると未だ痙攣している右腕を、左手でさする。


「おい、無事か!?」

「うん、たぶん……」

「なにがあった?」

「わからない。あの魔物に攻撃されたんだと思うけど……」

「見せてみろ!」


 アーヴィはリメアの腕を手に取ると、足元にあった水たまりから水を掬い、汚れを洗い流す。


「……なんとも……なさそうだな……」

「う、うん……」


 腕はあれほどの激痛があったにも関わらず、小さなかすり傷、刺し傷ひとつついていなかった。


「リッキー、腕の内側は大丈夫かな。毒とか入ってない?」


 リメアは胸に手を当て、体内に隠れている相棒へ尋ねてみる。

 胸元がわずかに光り、声だけが返ってきた。

 

「リメア様、たった今解析しましたガ、問題は見当たりまセン。リメア様のお肌はピチピチそのものデス」

「リッキー、こんなときに冗談はやめて」

「す、すみまセン……」


 アーヴィは目に入った雨を拭い、魔物の方へ顔を向ける。


「しかしまずいな。攻撃の正体が掴めねぇ」

「うん。あれじゃ、直接攻撃できなさそう」

「俺の開霊端子を使うしかねぇか……」


 喋っている間にも、魔物はずるずると進んでいき、今ではもう体のほとんどが城壁の外へ出てしまっている。

 ギルド側の士気も相当落ちており、追撃の矢はまばらだった。

 レインウッドが降らせる雨は非常に強く、しばらく止みそうにない。


「次は俺が行く。援護頼めるか?」

「もちろん!」


 リメアは頷き、右腕をぐるぐる回してみる。

 痺れは収まり、普段と同じように手も動いた。


「行くぞ!」

「うんっ!」


 駆け出したアーヴィに続いて、リメアも走り出す。


「っ!?」


 崩れた城壁に足をかけた瞬間、アーヴィが目を見開いた。


「クソッタレが!」


 続いてリメアも外を覗き、愕然とする。

 これまでの数ヶ月、姿すら見なかった魔物たちが、透明な魔物を取り囲むように集まっていた。


「これじゃあまるで、魔王戦と変わらねぇぞ……!」


 歯噛みするアーヴィの横で、どうすればいいかをひたすら考えるリメア。

 森の中からは、次々に魔物たちが現れる。

 さすがに多勢に無勢だった。

 その時、鳥の鳴き声に似た音が戦場に響き渡る。

 次の瞬間、鼻を振り上げていたデュオナッソの一匹が、轟音とともに弾け飛んだ。


「ユグルタ!」


 リメアは崩れかけた城壁を見上げ、顔を綻ばせる。

 そこには次の矢をつがえる組織の長(ギルドマスター)が、悠然と押し寄せる得物に狙いを定めていた。


「ふたりとも、周囲の魔物は任せろ。ただし、あまり深追いはするな!」

「へっ、やっと仕事する気になったか」

「アーヴィ、言い方!」

「わーったよ! 頼んだぜ、ギルドマスター様!」

「うむ!」


 返事をするよりも早く、剛弓が唸りを上げる。

 今度は立て続けに魔物たちが火達磨になった。


「お面の人たち!」


 見れば、崩れた城壁の周りにギルドの黒装束たちも集まっていた。

 透明な魔物に対し無力だった攻撃も、通常の魔物相手であれば十分な火力だった。


()けっ!」


 ユグルタの掛け声と同時に、リメアたちは城壁を飛び降りる。

 飛びかかってきた蜘蛛の魔物が、空中で閃光と共に爆発四散した。

 透明な魔物の這った痕が、大地に残されている。

 その先には闇に沈んだ大森林が広がっていた。


「急ぐぞ! あんまり奥まで進まれると、見えなくなっちまう!」

「うん!」


 リメアとアーヴィは矢が降り注ぐ中、透明な魔物の足跡を追って真っ直ぐ森へと入っていった。

 照明弾がいくつも空へ放たたれ、鬱蒼とした森が昼間のように照らされる。


「いたぞ!」


 アーヴィが叫んだ先を見ると、透明な魔物が木をなぎ倒しながら進んでいた。

 しかし、その姿にリメアは違和感を覚える。


「なんか……小さくない?」

「……まさかっ!?」


 アーヴィはガバっと振り返り、周囲を見回す。


「くそっ、いつの間に! あいつ、分裂してやがる!」

「嘘っ、全然気が付かなかった! 上から見てくる!」

「頼んだぞ!」


 リメアは足に力を込め、大きくジャンプした。

 照明弾とほぼ同じ高さまで上昇し、森全体を見渡す。


「わ! 3つに分かれてる!」

 

 視界の悪い地上からは見えなかったが、上空から見下ろせば一目瞭然。

 アーヴィのいる場所から左右に1体ずつ、透明な魔物の姿を確認できた。


「そうか、木を倒さないように途中で分かれたんだ……!」


 リメアは透明な魔物の狡猾さに舌を巻く。

 木をなぎ倒しながら進む中央の個体に対し、他2体は少し離れたところから道を作っている。

 明らかにリメアたちの追跡を回避する知能を持ち合わせていた。

 地上へ戻ると、アーヴィが右腕を青白く光らせて待っていた。

 掌から棒状の端子が伸びている。

 状況を説明すると、やっぱりな、とアーヴィは頷く。

 

「とりあえず、だ。まずはフェイクだろうが、目の前のこいつを叩く!」

「わかった!」

 

 アーヴィは身を低くして疾走する。リメアもその背中に続いた。

 透明な魔物が森を切り開いてくれたおかげで障害物はなく、すぐにその巨体に追いついた。


「おっらぁ!」


 アーヴィは腕を一際強く光らせ、端子の先端を魔物に突き刺す。


「!?」


 瞬間、アーヴィの表情が強張った。

 進行に全精力を注いでいた魔物は急に動きを止める。


「アーヴィ、どうしたの!?」

「おかしい! こいつがフェイクだからか!?」


 アーヴィが端子を引き抜いた直後、透明な魔物がぐにゃりと形を変えた。


「まずいぞ……!」

「や、やばそう……っ!」


 ぐぐっと、波のように体を引き伸ばした透明な魔物は、ここにきてはじめて、反撃の姿勢を見せた。

 リメアたちに覆いかぶさるようにその巨体を傾けてくる。


「アーヴィ!!」


 リメアはアーヴィの腕を掴み、その場から距離を取る。

 ザプン、と倒れ込んだ魔物は木々をなぎ倒しながら大きく広がる。

 なんとか逃げ切ったリメアは、あの痛みを全身で受け止めたときのことを想像して身震いした。


「つ、捕まったら大変だよ!」

「あ、ああ。危なかった。だが、わかったことがある。あいつはやっぱり偽物だ。なんの情報も引き出せなかった」

「じゃあ、残り2つのどちらかが……!」

「本物ってことだ!」


 リメアはアーヴィと目で頷き合う。

 さっそくリメアはアーヴィをお姫様抱っこの姿勢で持ち上げ、右の魔物がいた方角へ大きくジャンプした。


「……いや、なんでこうなる?」


 腕の中で丸くなったアーヴィが異議を唱える。


「え、どうして?」

「いや……もういい。今はそれどころじゃないしな……」


 どこか諦念を浮かべたアーヴィの横顔は、ちょっぴり切なそうだった。


「んしょっ!」


 2体目の近くに着地したリメアは、戦慄する。

 すでに透明な魔物は進行を止めており、体から長い触手を何本も伸ばして待ち構えていたのだ。


「……待ち伏せか。この様子だと、こいつもフェイク臭ぇが、やるしかねえな……って、リメア? もう下ろしてくれても――」


 アーヴィが言い終わるよりも早く、闇を切り裂いて触手が迫ってくる。

 いち早く察知していたリメアは、即座に回避。

 先ほど降り立った地面は、攻撃を受けて大きく抉れていた。

 ヒュウ、と口笛を吹くアーヴィ。


「アーヴィ、右腕出して」

「ん? こうか? ……って、まさか」

「そのまさかだよっ!」


 リメアはアーヴィを抱えたまま走り出す。

 アーヴィは情けない声で叫んだ。


「おい! 俺は宇宙を恐怖に叩き落とした大罪人だぞ! 精霊解放戦線の大英雄だぞっ! こんな……女の子に抱きかかえられて特攻するとか、ありえねぇだろ!」

「だって、アーヴィ遅いもん」

「だからって! だ、ダサすぎる……っ!」


 リメアは振り回される触手の猛攻をかい潜り、透明な魔物の懐へと潜り込む。


「ほら早く! 手を伸ばして!」

「はい……」


 右へ左へと激しく揺さぶられたアーヴィはすっかり大人しくなり、言われるがまま腕を伸ばした。

 透明な魔物の胴体に刺さった端子は強く光を放つも、アーヴィは首を横に振る。


「やっぱりダメだ。リメアの言っていたもう1体が恐らく本物だ」

「じゃあ、そっちに行くよっ!」


 四方八方から逃げ道を塞ごうと襲ってくる触手。

 リメアはぐぐっと足に力を込め、攻撃の死角、上空に向けて飛び立った。

 背後から触腕が何本も迫ってくる。


「来てる! 来てるぞ触手が!」

「わかってるよ!」


 騒ぐアーヴィを黙らせるようにリメアは足からエーテルを噴射して加速。

 触手は途中で追うのを諦め、大きな音を立てながら森の中へ沈んでいった。


「あ、危なかった……!」


 冷や汗を拭うアーヴィ。

 リメアは跳びながら深い森へと目を凝らす。

 城塞から届く照明弾の光にも限界がある。

 薄暗闇の中に蠢く影を見つけ、リメアはホッとした。


「よかった、まだ間に合う!」


 最後の1体は、他の2体と異なり、脇目もふらずに森の奥へ奥へと進んでいた。


「逃さない!」


 リメアは着地と同時に大地を蹴り、猛烈な速度で透明な魔物を追いかける。

 こちらへと攻撃をしてくる様子はなく、ひたすら逃げようと魔物はもがいていた。


「いっっっけぇっっ!!!」


 リメアはアーヴィを力いっぱい投げ飛ばす。

 もちろん許可は取っていない。


「うおおおおおおおおっ!」


 雄叫びを上げながら地面と平行に直進するアーヴィは、空中でなんとか体制を立て直し、正面へ右腕を向ける。

 やがてアーヴィ砲は透明な魔物へと着弾。

 薄暗い森を青白い光が満たしていく。


「やった……!」


 リメアは肩で息をしながらその光景を見つめていた。

 ――が、しかし。

 その笑顔は徐々に消えていき、絶望がリメアの胸中を支配する。

 悔しげな表情のアーヴィが戻ってきたと同時に、リメアは地面に膝をついた。


「くそっ、あいつにも端子が効かなかった! おい、リメア! 何へたり込んでんだ! このままじゃあいつらを逃がしちまう! 対策を考えないと――」

「アーヴィ……」

「なんだ! どうしたんだ!」


 リメアは目を見開き、感情の消え失せた声で呟いた。


「ロトンダは、どこ?」

「……っ!?」


 アーヴィは弾かれたように顔を上げ、絶句する。

 少なくともリメアはこれまでの戦いの最中、透明な魔物の体内にロトンダがいないか、確認を怠っていない。

 1体目も、2体目も、その体内にロトンダの姿はなかった。

 そして今。アーヴィの端子に照らされた3体目の体内に、ロトンダの姿が見当たらない。

 これが意味することは、ひとつだけ。


「クソッ! 分裂した段階で、気づくべきだった!」


 地面を殴りつけ、呪詛を吐くアーヴィ。


「4体目が、いやがったんだ……! 3体に俺達の注意を引き付けたまま、ロトンダを運べる最小限の大きさに分裂して! 森に入った時点で、俺達は……俺達は……!」


 リメアは静かに項垂れる。

 打ち上がった新たな照明弾が、あたり一面を照らした。

 雨粒で泡立つ水たまりに、歪んだ顔が浮かんでいた。


(ごめん……ごめんなさい……。わたし、ロトンダを……守れなかった……)


 打ちひしがれるリメアへ追い打ちをかけるように、アーヴィが声を絞り出す。


「完全……敗北だ……」


 3体目の透明な魔物も既に闇へと消え、残されたふたりの体には、弱まり始めた雨がしとしとと無情にも降り続けていた。

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