その10
リジーはただ待つしかできない自分が腹立たしかったが、シュナイダーと約束したのだ。
何があってもこの部屋から出ないと。最悪の場合は別だけど。
静まり返る部屋の中で音も立てずにいることがどれほどの苦痛かリジーは分かっていた。
昔…そう、リジーがまだ子供だった頃、誘拐されたことがあったのだ。
犯人はなんと父親。
犯行は生命保険目当てのものだった。
借金を作り、それを母に隠すことができなくなった為やむおえずだったと父は言っていた。
でも、誘拐されたその間、リジーは音を立てることを禁じられた。
納屋に閉じ込められていたのだ。
音を立てればすぐに見つかる場所だ。
でもね、すぐに見つけられることはなかった。よき父で通っていたからだ。
そんな父が犯罪を犯すなんて誰も思わなかった。
ただ、警察も馬鹿じゃない。
地道な捜査で犯人が父親だと分かるのにそう日にちはかからなかった。
けれどもリジーは助けられるまで音を立てることはしなかった。
いや、出来なかったのだ。
あの時の父が唯一怖いと感じた父だったのだ。
鬼の形相のような顔をしてリジーにこう言ったからだ。
「お前は一生ここで過ごすんだ。誰にも見つけられることはない。良かったな。生きてるだけでもありがたいだろ?おとなしくしなかったら殺すぞ!」
そう言っていた父はすぐに逮捕され、警察官によって私は助け出された。
刑事達もまさかこんな近くに私がいたなんて思いもしなかったようだ。皆驚いていた。
「なんで声出さなかったんだい?」
「だって、パパが殺すぞって脅すんだもん。怖かった〜。」そう言って刑事さんに抱きついてわんわん泣いた記憶がある。
母が近寄って来た時も私は泣いていた。
パパが捕まった後、ママはパパと離婚したと聞かされた。
父とはそれ以降会うことはなかったが、風の噂で誰かと一緒になったと聞いた。
今の時間は午後11時。
寝なきゃいけないんだけど、さすがに寝られそうもない。どうしたもんかと頭を抱えていたら、玄関のチャイムが鳴った。
リジーは部屋の電気を消し、忍び足で玄関のドアの前までやって来た。
小さな穴からは誰かはわからない。
ガチャガチャガチャっとドアを開けようとする音がしたので、一歩また一歩と下がり隣の部屋に逃げ込んだ。
ドンドンとドアを叩く音が聞こえる。
リジーは息を殺した。
「僕だよ。イヴァン。開けてくれないかなぁ〜。ほら、さあ…。」
でも、ドアを開けなかった。声がどうしたって違う。
そこでリジーは窓のそばまで来て窓から外を眺めた。しかしここは最上階、逃げるにはどうしたら?そう思って上を見上げた時、非常階段のマークがついていた。引っかけるものがあれば下ろすことができる。周りを見て見たが、すぐにそれを見つけた。棒だ。先には引っかけるものがついていた。
すぐにそれを使って階段を下ろし上に出た。
そこは建物の最上階の屋根の上。
そこに通じるドアを見つけた。
すぐにドアのそばまでやってくるとガチャガチャと動かしてみる。しかし鍵がかかっているようで開くことはなかった。
そこで今手にしているものから何か使えそうなものはないかとその場にぶちゃけて探した。
すると髪留めがあった。
それを形を変えて鍵穴に突っ込んで回して見た。するとカチャリと音がしてドアが開いた。
リジーはすぐに駆け出した。靴は履いてないから音を気にする必要はない。
ポケットにはもしものためにと携帯を入れていたのですぐにシュナイダーに携帯をかけた。でも繋がらなかった。
「シュナイダー!お願い!出て!?」
しかし無情にも携帯は呼び出し音を鳴らすのみ。
シュナイダーに何かあったのか?
さっきのイヴァンはどうしたって声が違った。人の声の違いは聞くだけですぐにわかる。絶対音感の持ち主というわけではないのだが、間違えたことはなかった。
だから、さっきの声は明らかに違う。
声を変えたって元が一緒ならすぐに分かる。
シュナイダーは今どこに?
奴らに見つかったの?捕まったの?
分からない。でも逃げなきゃ。
彼との約束だもの。




