66 お見合い写真とクロスカウンター。
あのビックベアーは、この地から、たいして離れていない別大陸にある原生林を故郷とするものだろうということは、シャランにはすぐに予想がついた。
この魔の森の種にしては大き過ぎる故に、隣国との間の海を渡ってきたと思われる。
人ですら、小舟で渡れる距離であり、しかも波が穏やかどころか、地形が波を消してしまい無いという状況だ。
渡ってきたとしてもおかしくはない。
そして、隣国が、この国にちょっかいを掛けてきただけなら問題はないとは言い切れないが、問題ない。
しかし、もしそれが自国の人間が仕組んだことなら、それは隣国と戦争を画策している事になる。
何せ、あの巨体で、あのパワーを持つビックベアーを町に向かって走らせるだけでどれだけの被害が出るかは判らないのだ。
確実に被害が酷いとだけは言えるが。
しかも、それが隣国の仕業と言う事にして、仕掛けた人間が煽れば、風潮は隣国滅ぼすべしとやや過激に表現したが、それでもそうならざるを得ない。
ただ、本当に隣国がちょっかいを掛けてきた場合なら、貴族共が隣国から搾り取る為に風潮を操作するだろう。
「ふむ、さてどうするか。」
今回の件は慎重に捜査するべきだろう。
もし、自国の人間だとしたら怪しいのは高位貴族なのだから。
操り人形は、魔道具の中でも、結構な値段がするのだから。
どうするかと悩むシャラン。ふと顔を上げると、机の上に山と積まれたお見合い写真が目に入った。
「ふむ、利用するか。」
「お姉様っ!」
ラーシャンにもシャランのやろうとしている事が判ったのだろう。
このお見合い写真は、貴族同士の物だ。
それも、家の存続に注視する高位貴族らしいものであり、家柄や、収入、付き合っている商家まで事細かに書かれている。
それを利用して犯人捜しをしようと言うのだシャランは。
だが、この調査については悪用しないという暗黙の了解みたいなのがある。
何せ、此処まで調べるのは格上の家が行うのだ。
それを、悪用して気に入らない貴族家を潰してしまう事になったら大変だからだ。
曲がりなりにも、貴族家は王家が任命している。
それを覆してしまう事になるのだ。
「我が家は公爵家、そんな由緒正しい家柄の人間がその様な事を許されるとお思いでっ!」
「だがな、犯人を早めに捕えないと大変な事になるのだぞ。」
「だからと言って、お見合い用の物を利用するのはどうなんですかっ!」
「元々、見栄だけの物だろう。なら有効活用しても大丈夫だ。」
だんだん、声が荒げていく二人は、終いには手が出始めた。
どちらが先だったかは忘れたが、室内の騒がしさにメイド長が注意しに来た。
扉を開けて、室内を覗き込んだ。
「クッ、クロスカウンター……。」
メイド長の呟きが、室内で何が起きたのか雄弁に語っていた。
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