56 ラーシャンの冒険7
ラーシャンは振り下ろされた前足を金ダライの丸みを利用して、易々と反らす。
「ふむ、軽いわねぇ。」
もう少しヤルかと思ったが、軽く感じたのだ。
まぁそれも仕方ないのかもしれない。
確かに、ラーシャンは貴族令嬢だ。戦う術等基本は知らない。
しかし、幼馴染で、現義姉と小さい時から喧嘩していたのだ。
随一の実力冒険者と呼ばれたシャランとすら、いまだに殴り合いの喧嘩をする。
そんなラーシャンが、Eランクの魔物に苦戦するとは思わなかった。
だが、ビックベアーの方もただやられているわけではない。
元々の種を遥かに超えて強靭となった、その体躯を本能のまま完全に制御し、ラーシャンに向かって、二撃、三撃と連続で攻撃を加えていく。
ラーシャンは、二度、三度と弾き、時には回避して躱していく。
ラーシャンは知らず知らずの内に獰猛な笑みを浮かべていた。
命の危機には瀕しているものの、それでも全力で動けることが楽しかった。
「ふむ、なかなかやりますわね。」
互いに、一歩後ろに飛び退り、距離を開けた。
まるで鏡写しになったかのように、その後退は次の一撃の為と言わんばかりに膝を曲げ、力を溜める。
ビックベアーが先に動いた。その突進力の勢いそのままに腕を突き出す。
その腕の先端にある鋭利な爪で、突き刺しに来た。
「まだまだ、甘いですわっ!!」
ラーシャンはその動きを見てから動き出す。
伸ばされた腕を、金ダライで絡みとるようにして、上へと弾き、その巨体が上を向いた瞬間、腹に一撃を加えた。
ビックベアーは、少しだがよろめき、後ろに後退する。
だが、何よりも巨体な為、大した一撃にならなかった。
「あら?なかなか大きいと言う事は厄介ですわ。」
口調が公爵令嬢のものに戻っていた。
それは、ラーシャンが恐怖を感じていると言う事。
公爵令嬢として身に着けた自信を守る強靭な精神力をフル稼働させていると言う事。
それには気付いていたが、それでもどうにもならなかった。
ここでラーシャンにとって致命的なことが起こる。
まるでラーシャンの良く末を予言するかのように金ダライが、ラーシャンの武器が振った瞬間に真っ二つに折れたのだ。
良く持った方だとは思う。
専用の武器などではなく、庭先に放置されていた家庭洗濯用の金ダライなのだから。
兎にも角にもラーシャンが圧倒的に不利になった筈だ。
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