50 ラーシャンの冒険2
冒険者ギルドの扉を開いたラーシャンに、無数の視線が降り注いだ。
公爵令嬢たるラーシャンは人々の前にも出ることがある。その為、この程度の視線で怯むことなく受付と思われる場所まで歩いていく。
冒険者ギルドの扉を開いた者はまず、この視線で怯える。そして怯えた者は先輩達の洗礼を受けるのだった。
ある意味ラーシャンはこれに合格したと言ってもいい。しかし、人の視線が離れることはなかった。
その手に持つ武器のせいで。
そんなことに気付かずラーシャンは受付まで、歩いていく。
受付嬢は一種異様な雰囲気に、ゴクリと喉をならす。
「すみません。」
「はっ、はい、なんでしょうか。」
見た目通りの綺麗なしかし、力の籠った声で話しかけられ緊張しつつ業務を全うする。
周りも、実力者に見える存在の一挙手一投足に注目していた。
ラーシャンは不思議な顔をしながら、事前に書いてきた紙を受付に渡す。
「冒険者登録したいんだけど。」
後ろで大きな音がした。
「初心者かよっ!」
「まぁ、あんなもん武器にしてんだからな。」
「ああ、何か損した気分だぜ。」
椅子や机ごと引っくり返っていたものが、ドンドン直されていく。
何事か判らないラーシャンは、首を傾げていた。
「あははは、はいこれで登録は終わりましたよ。」
思わず、受付嬢もずれた眼鏡を元に戻しながら、手だけはいつも通りに動いていたので、登録だけに対して時間は取られなかった。
「おいおい、初心者さんよぉ。俺が良いクエストを教えてやるぜ。」
「結構よ。」
「そんなこと言うなよな。ちょろっと付き合えって。」
何処にもこんな男が居るのだろうか、ラーシャンが初心者と知るや、大柄な男がラーシャンに絡んできた。
ラーシャンはそれを断るもしつこく、ラーシャンの腕を取ろうとしてきた。
「あんた、モテないからって絡むの如何かと思うわよ。」
「あんだと、こら。優しくしてりゃ付け上がりやがって。」
「そんな、がめついた目してりゃ断るわよ。」
「てめぇっ!」
ラーシャンはその手を振り払い、後は売り言葉に買い言葉。喧嘩に発展してしまった。
男が腰に差していた剣を抜く。
振り上げ、ラーシャンに向かって振り下ろすよりも早く、ラーシャンが動いた。
ラーシャンが持っていた武器を男に向かってブン投げたのだ。
ゴイーンッという甲高い音を立てて男の顔に命中する。
金タライが。
そう、ラーシャンの武器は何の変哲もない金タライであった。
男は底が男の顔の形に凹んだ金タライを顔に乗せたまま、後ろに倒れこんだのだった。
「おっほほほ、私に勝とうなんて、百年早いわよ。」
そんな、言葉を聞きながら気絶したのだった。
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