32 エンジとの戦闘、決着は空に。
「前方に、炎の精霊の幼生体が立っています。」
護衛達は、たった一人で前方に立つ精霊に不信感をいだいた。これは確信などではなく、長年の経験によるものであった。
前方に立つ炎の精霊から、巨大な魔力が吹き上がる。そして炎の砲撃が放たれた。
「全兵、前方に魔力壁展開。斜めにして受け流せ。」
護衛騎士達の将が、経験から真っ向から受け切れないと判断。馬車を守るように張った障壁を、三角錐の形に張った。
炎の砲撃は、三角錐の頂点で切り分けられ、綺麗に受け流された。
「やんじゃねーか。俺はエンジ、焔魔精霊のエンジだ。ちょっとは持たせろよ。」
エンジと名乗った炎の精霊は、騎士達との戦闘を行っていた。ただ、護衛達は積極的に攻撃せず守る戦いを続けていたため、エンジがどんなに巨大な魔力を有しようとも、なかなか突破することができなかった。
「ちっ、めんどくせぇ。」
後ろに跳び、距離を離したエンジは腕を突き出す。魔法と言うのは、体内から取り出せば自然と周りに融けて消えてしまう。その為、魔力を取り出さずに使う身体強化の魔法の方が強いと言われていた。ただし、砲撃魔法にも利点がある。砲撃魔法は広範囲に攻撃できること。そして、エンジクラスの巨大な魔力を有する場合、魔力が周りに溶け込もうが、それ以上の魔力を注ぎ込み、相手の魔力障壁を打ち破れるということ。今回のように多人数で守りに入られた場合、砲撃魔法は有効であった。
突き出した腕から、焔が吹き出した。
「あぁっ!!それ僕もできるよ。」
何時の間にか降りてきていたメイズは、それに驚く護衛達を余所に、エンジの出した炎の魔法を見て、瞳を輝かせながら腕を突き出す。
エンジの物とは比べ物にならない炎が噴き出し、エンジの炎を押し始めた。
「なっ、なんだとっ!」
エンジにとっては到底信じられなかった。自分はただでさえ魔力に長け、ましてや炎の相性が抜群の炎の精霊なのだ。それが、自身よりも幼い子供に、炎の魔法で押されているのだ。
グングンとメイズの魔法はエンジに近づいている。このままでは負けると判断したエンジは、魔力を散らし、一瞬で身体強化の魔法に切り替え、炎から身を翻した。
地を蹴り、メイズへと肉薄する。
エンジは、自身の切り札と呼べる技を使う気だった。
身体強化した腕でメイズを掴もうとする。
確りと目で追っていたメイズは同じく身体強化した腕で、エンジの腕を掴んだ。
「くっく、掴んだな。ぜってぇ、離すなよ。」
エンジは、メイズと力比べの様になった指に力を込め、離れないようにする。そして魔力を意図して暴走させた。
エンジの体温が急激に上がっていく。これは、炎の精霊と言う種の固有技である。
自身の体温を上げて、相手を焼き殺すというものだ。自身の体力を一気に奪うというデメリットもあるが、それをおしても勝ちたいと思った相手は初めてであった。
メイズと戦っているうちに、一撃二撃程度の短い戦いとも呼べないものであったが、それでも、エンジ相手に、真直ぐ向き合ったのは目の前の幼子が初めてであった。
故にエンジは何としてでも勝ちたかったのだ。
「ぐっ、なっなに!!」
しかし、どれだけ温度を上げても、一向にメイズが焼ける気配がない。それどころか、掴んでいる自身の腕がミシミシと音を立て始めた。
炎そのものと化したエンジの腕が悲鳴を上げていた。
メイズも楽しんでいたのだ。故に魔力制御を完全に忘れ、メイズの本来の魔力が吹き出していた。吹き出した巨大な魔力が、障壁の役割を果たし、メイズを守りつつ、魔力で掴んでいる状態の為、本来掴むことのできない炎を掴んで潰しかけていたのだ。
「…メイズ様、それ以上力を込めますと、その子死んじゃいますよ。」
「うわえっ!」
降りてきたランにそう言われ、びっくりして慌てて万歳のように腕を力付くであげた。
「のうえっ、うわああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ………。」
当然、掴んでいたエンジを遥か上空に投げてしまう。
「ああ、どうしよう、どうしよう!?」
さっきまでのシリアスは何処に行ったのか、本気の素で慌てるメイズが居た。
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