スイートルームの夜と翌朝の可哀想な男子
イベントは大盛況のうちに幕を閉じた。
熱気冷めやらぬホテルの静かな廊下で、リエが俺の隣に並んでぽつりと呟いた。
「リオン、ありがとうね」
「うん?」
「昔からのリスナーに会わせてくれて…本当に嬉しかった」
「ううん、俺の方こそ感謝してるよ。あの人たちがいてくれたから、今のリエと俺がいるんだし」
「それでも、ありがと♡ちゅっ♡」
背伸びをして、俺の頬に小さく唇を重ねるリエ。
配信外で照れくさそうに笑う彼女の手を、俺はキュッと握り返した。
「…ねえリエ、実はさ。ここのホテルのスイートルーム、取ってあるんだ♡」
「えっ?♡もしかして…きょ、今日もするの!?ええぇ…」
「なんで引いてるのさ!ほら、行くよリエ♡」
「きゃっ!?」
リエの手を引いて部屋へと向かう俺。
…この時、俺たちは完全に油断していたのだ。
リエが配信を切っているから、もう大丈夫だと。
だが、この会場には無数の『配信者』たちが集まっていた。
廊下の物陰から、底辺配信者のカメラが、ばっちり俺たちを捉えていたことなど知る由もなく。
◇◇◇
翌朝。
『【神回】リオン様とリエちゃんのスイートルーム直行現場を目撃してしまったwww』
昨夜、たまたま廊下で撮影していたチャンネル登録数ひと桁の底辺女子配信者の動画が、案の定、全世界で爆発的にバズっていた。
『登録者数3人のチャンネルが一晩で10万人になってて草www』
『リオン様「今日もするの?」「行くよリエ♡」の破壊力ヤバい』
『底辺配信者、一生分の運使い果たしたなwww』
『また配信切り忘れ(物理)でバズってんのほんと好き』
画面越しに大騒ぎされる中、街中のカフェでスマホを見ていたリエが「撮られてたの~!」と頭を抱えていた。
そんな俺たちのすぐ近くの席から、聞き捨てならない会話が聞こえてきた。
「ねえ!!アンタも私の配信に出なさいよ!!これは幼馴染としての命令!!」
「嫌だよ、ユウカちゃん…やだ、女の子…こわいっ…」
声のする方を見ると、強気そうな女子が、おどおどと身を縮こまらせる気弱な男子の腕を強引に引っ張っていた。
「アタシたちも、あのリオンって奴らみたいに『カップルチャンネル』やるの!!だからアンタも協力しなさい!」
「僕…リオン君みたいにはなれないよ…あんな風に女の子に優しくしたり、お部屋に泊めたりなんて無理だよぉ…」
…あ、あの男の子、めちゃくちゃ困ってるな。
この世界における一般的な男子は、女子の強引さに怯え、性にも消極的でおとなしいのが普通なのだ。
目の前の光景は、まさにこの世界の現実そのものだった。
前世の男子高校生としての血が騒ぐとともに、あまりに可哀想な男子の姿を見過ごせず、俺は思わず席を立った。
「…ちょっと、そこの君。男の子が嫌がってるんだから、無理強いは良くないんじゃないか?」
「「…えっ!?」」
振り返った幼馴染コンビと、カフェ内にいた客たちの視線が一斉に俺へと注がれる。
「リ、リオン様ーっ!??!?!」
『自ら首を突っ込んでいくスタイルw』
『放っておけないのよ(笑)』
『またバズらせるのか』
〜こうして、スイートルームでのバズりも冷めやらぬまま、俺は新たな迷える男子と猛者女子のトラブルへと首を突っ込んでいくのだった〜




