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からくり競艇【白銀の波切り、魂のフルスロットル】  作者: 水前寺鯉太郎
第七部 最速機兵(スプリント)編

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タイトル未定2026/05/27 22:08

SGスプリント、四日目。予選最終日。

 朝のピット。あかりが得点率の画面を光に向けた。

「七・五五っすよ、光くん。現在十二位っすよ。準優勝戦に進めるのは上位十二名っすよ」

「ギリギリか」

「今日一走、二着以内が絶対条件っすよ」

 光は平和島の水面を見た。今日も風が来ていた。しかし三日間走り続けた体が、昨日とは違う何かを感じていた。風のパターンが、少しだけ読めてきている——いや、違う。読むのではない。作るのだ。

 第八レース出走表。

 一号艇・西野和正(真空)

 二号艇・速水光(物理)

 三号艇・三宅迅(雷)

 四号艇・瓜生俊治(三重血脈)

「四人全員、スプリントの推薦枠を狙ってる組っすよ」あかりが言った。「このレースで二着以内に入れるのは、二人だけっすよ」

「分かってる」

 ピット離れの直前。和正が光の隣に立った。

「速水。三日間見ていた。お前の静止点の精度が上がってきている」

「まだ作れていない」

「だが——」和正は平和島の水面を見た。「今日のビル風は昨日より強い。真空でも吸いきれない乱流がある。そういう日は、静止点が自然に生まれやすい」

 それだけ言って、自分のボートへ戻った。

 光は和正の背中を見た。敵が、情報をくれた。

「ピットアウト!」

 ファンファーレが響いた。

 コース争い。光は二コースをキープした。和正が一コース、三宅が三コース、俊治が四コースへ。

 スタートラインへ向けて、朱雀のプロペラがキリキリと水を噛む。

 光は右指をレバーに当てた。足の裏を水面に預けた。

 今日は待たない。探さない。——風が来る前に、俺が動く。

 スタート——ゼロ。コンマ〇三。

 一マーク。三宅が電撃を放った。和正の真空が空気を吸った。俊治の三重血脈が外から被せた。三つの属性が平和島の乱流と混ざり合った。

 その衝突の瞬間——光は感じた。

 ビル風が止まる、一瞬前の静けさ。

 風が来る前に、朱雀の機首を刺した。右指と足の裏が同時に動いた。物理と——何かが、僅かに重なった。

 三者の属性がぶつかり合った隙間を、朱雀が抜けた。

「二号艇・速水光、一マークを制した!!」

 バックストレッチへ出た。先頭だ。

 後ろから和正の真空が来た。三宅の雷が来た。俊治の加速が来た。

 光は右指と足の裏を、同時に使い続けた。徳山のバックストレッチで掴んだ感覚が、平和島の乱流の中で別の形を取ろうとしていた。完全ではない。しかし——続いている。

 最終コーナー。俊治が外から被せた。光は揺りかごの形を作った。俊治の速度を根にした。

 ゴールライン。

「二号艇・速水光、一着!! 予選首位通過!!」

 エンジンを切った。

 右指がまだ動いていた。あの瞬間——風が来る前に朱雀を動かした。静止点を待ったのではない。作ったのでもない。ただ、風より先に動いた。

「光くん!!」

 あかりが来た。データを見ながら、声が震えていた。

「バックストレッチ、二・七秒っすよ。静止点が二・七秒続いたっすよ」

「二・七か」

「〇・八から一・二、そして二・七っすよ」あかりは光を見た。「明日の準優勝戦、戦えるっすよ」

 光は平和島の水面を見た。

 父への問いが来た——「空を掴む」という言葉の意味が、今日少しだけ変わった。待つのでも探すのでもない。風より先に、自分が動く。それが「空を掴む」ということなのか。

「ネ、明日だ」

 ネが低く一声鳴いた。平和島の夜が、静かに深まっていた。

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