タイトル未定2026/05/27 22:07
SGスプリント、二日目。
朝から風が強かった。昨日より乱流の方向が多い。ビル群の隙間ごとに、別の風が来る。
第七レース。光は三コースから差しにいった。
一マーク。右指が物理入力を送った。同時に足の裏で静止点を探した——風が変わった。朱雀の機首が外へ流された。揺りかごの形を作り直した。間に合わなかった。
三着。
ピットに戻った。あかりがデータを確認した。
「風のパターンが読めてきてるっすよ、光くん。でも読んだ瞬間に変わるっすよ」
「分かってる」
「読むんじゃなくて——」あかりは言いかけて、止まった。
「なんだ」
「……データを見てから言うっすよ」
あかりはタブレットを閉じた。
第十一レース。光は二コースから入った。
一マーク。今度は読もうとしなかった。風が来る前に、足の裏で水面の底を踏んだ。右指がレバーを引いた——同時に。
一瞬だけ、静止点があった気がした。
しかし朱雀の機首は、コンマ数度だけまた外へ流された。
三着。
夜、整備室。あかりがハンマーを持ったまま光を見た。
「光くん。読もうとするから遅れるっすよ」
「分かってる。第十一レースは読まなかった」
「でも、まだ「探して」るっすよ」あかりは言った。「静止点は探すものじゃないっすよ。——光くんが作るものっすよ」
優奈の言葉と同じだった。しかし今夜のあかりの言葉は、もう少し具体的な何かを含んでいた気がした。
「どうやって作る」
「それは——」あかりは一秒だけ間を置いた。「明日の水面で、光くんが見つけるっすよ」
キィィィン、キィィィン——。
深夜の整備室に、ハンマーの音が響いた。
父への問いが来た——父もこの水面で、風と戦ったことがあるのか。「地と空の両方を持つ」と恐れた男が、平和島の乱流の中で何を感じたのか。
答えはまだ出ない。
「ネ、明日も行くぞ」
ネが低く一声鳴いた。平和島の夜風が、ビル群の隙間を抜けて水面を渡っていた。




