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からくり競艇【白銀の波切り、魂のフルスロットル】  作者: 水前寺鯉太郎
第七部 最速機兵(スプリント)編

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「宿命の血——親父たちの因縁を、徳山で終わらせる」

G1・徳山サントリーカップ、初日。

 瀬戸内の真夏の太陽が、白く乾いた光で水面を灼いていた。バックストレッチが遠くまで伸びている。鳴門の渦潮とは全く異なる、広くて静かな種類の水だ。


「光くん、初戦からいきなりとんでもない相手と当たったっす……」


 あかりが出走表のモニターを指差した。

 第五レース、三号艇——瓜生俊治。

 光はその名を見た。一秒だけ、手が止まった。


「瓜生俊樹の息子か」


「はいっす。静岡支部出身のA1。父親ゆずりのスピード特化型で、徳山の直線では赤崎さんと並ぶ最速クラスっすよ」


 光は水面を見た。

 瓜生俊樹。光の父・速水誠と、SGの舞台で何度も死闘を繰り広げた男だ。マブイゼロという絶対的な制約の中で、純粋な物理の塊として戦い続けたレジェンド。誠がかつて「あいつだけは理屈が通じなかった」と漏らしたという話を、大二郎から聞いたことがある。


 その血脈を引いて生まれたのが、瓜生俊治だった。深田萌歌の冷徹な計算と、永島あきの苛烈な旋回感覚と、瓜生俊樹の物理の速さ。三人分の才能が一人の肉体に詰め込まれた男。それだけのものを背負わされた男が、どれほどの重さの中を生きているのか——光には想像できなかった。


 ピットで視線がぶつかった。俊治は冷徹な目だった。しかしその奥に、どす黒い何かが宿っていた。怒りでも悲しみでもない。もっと古い種類の何かだ。


「速水誠の息子か。……親父たちの因縁を、この徳山で終わらせてやるよ」


 それだけ言って、自分のピットへ戻った。

 光は俊治の背中を見た。

 父への問いが来た——父と瓜生俊樹は、この水面で戦ったことがあるのか。あの二人の死闘の中に、今の俺と俊治の戦いの種が埋まっているのか。


 答えは出ない。ただ、今日の第五レースがある。


「第五レース、ピットアウトです!」


 ファンファーレが響き、六艇が瀬戸内の水面へ弾け出た。朱雀は、スプリント仕様に叩き直した爆音を響かせた。

 コース争い。光は一コースをキープした。俊治の三号艇が鋭いピット離れから内を伺い、三コースを強奪した。その動きに無駄がなかった。深田の冷静さと永島の鋭さが同居しているような操艇だった。


「一コース・一号艇、速水光。三コース・三号艇、瓜生俊治。父たちの魂を継ぐ二世たちの激突です!!」


 大時計の針が回った。スタートラインへ向けて、朱雀のプロペラがキリキリと水を噛む。

 光は右指をレバーに当てた。徳山のバックストレッチを、足の裏で感じていた。鳴門より長い直線。「一」の地脈が、その長さの中で深く伸びていく感覚があった。


 杏奈に誓った。徳山を獲る。

 スタート——ゼロ。

 ドン、と体を押し出す加速が来た。朱雀が瀬戸内の水を蹴る。バックストレッチへの直線が開けた——その瞬間。


 外側から、カミソリのような伸びが来た。

 三コースの俊治が、スリットを抜けると同時に全開のまくりで飛び込んできた。父・俊樹のスピードと母たちの旋回感覚が混ざり合った、禍々しいまでの加速だった。


「瓜生俊治、電撃のまくり体制!! 速水光、残せるか!?」


 一マークが迫った。

 光は右指でレバーをねじ込んだ。朱雀の「一」が徳山の底を感じ取ろうとしていた。深くはない。しかし、長い——徳山の直線は、根を張るのではなく、走り続けることで力が増す水面だ。

 俊治の機首が光の右舷に迫る。

 光はレバーを、さらに奥へ。

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