「戻ってきた——師匠の一号機と、地脈の一が、応えた」
二〇五四年八月。G2・海王決定戦、優勝戦。
一号艇・光、二号艇・杏奈、三号艇・西野、四号艇・大輝。
「光……水の上じゃ容赦せんど。うちの炎で、一番にゴール板へ飛び込んだるわい!」
「手加減されたら、師匠に怒られる。俺も全力で行く」
スタート——ゼロ。コンマ〇二。
一マーク。西野の真空が空気を吸い尽くそうとした。大輝の湿気がプロペラに絡もうとした。杏奈の炎がそれらを外から焼き破った。
三つの属性が交差した——その衝突点に、一瞬の気圧の歪みが生まれた。
光の右指の「一」が来た。その針の穴を右指で読んだ。朱雀の機首を刺した。大二郎の一号機が応えた。
抜けた。
「一号艇・速水光、独走!! 復帰後初の重賞制覇!!」
ゴールラインを抜けた。
父は——今日の結果を、どこかで見ているのか。その問いが来た。答えは出ない。
「光くん!! ついに戻ってきたっすよ!!」
あかりが涙を流して来た。光はその言葉を受けた。
「ありがとう、あかりさん。俺、やっと戻ってきた」
ネが低く一声鳴いた。
水神祭だ。
「せーの!」
徳島支部の仲間に持ち上げられた。
ドボーン。
夏の鳴門の水面が、夜のカクテル光線を受けて輝いていた。冷たかった。気持ちよかった。それだけだった。
速水 光(登録番号:5XXX / 徳島支部・20歳)通算成績リポート
【現在の級別:A1級(海王決定戦優勝により確定)】
算出対象期間:2052年4月 〜 2054年8月(第1部〜第6部 完結時点)
総出走回数:122走
■ 基本スタッツ(通算マスターデータ)
総出走回数 122走 第1部:12走 / 第2部:94走 / 第3〜6部(復帰戦線):16走
1着回数 42回 第1部:10回 / 第2部:22回 / 第3〜6部:10回(宮島・桐生・鳴門G2等)
2着回数 25回 第1部:2回 / 第2部:19回 / 第3〜6部:4回(桐生予選、勝負駆け等)
3着回数 26回 第1部:0回 / 第2部:21回 / 第3〜6部:5回(桐生道中等)
通算勝率 6.58 降格・マブイ喪失期の不振を、初期の貯金と桐生・鳴門G2の全勝猛追で再良化
2連対率 54.9% 全出走(122走)のうち、1着または2着に入った確率
3連対率 76.2% 全出走(122走)のうち、3着以内に絡んだ(舟券対象)確率
通算事故率 0.024 事故点計10点/122走。A1審査基準(0.70以下)を驚異的な低数値でクリア
■ 所属・機体の変遷
所属支部:山口支部 ⇒ 徳島支部(第2部より移籍)
使用艇(相棒)の変遷:
『玄武(Genbu)』:漆黒の重装からくり艇。SG戦線では「三十九号機(低中速トルク最重量個体)」を搭載し、地脈を掴む接地走法を展開。鳴門SGの惨劇にて大破。
『朱雀・嶺上(Suzaku-Rinshan)』:マブイ消失後、あかりと共に玄武の素地から叩き直した物理特化モード仕様。ボディは深紅。師匠・香芝大二郎の遺志として残された「一号機(鳴門現行最高勝率・超抜個体)」をプラグインし、真の土地神の翼となる。
■ 称号(異名)の航跡
「下関の破壊者」(デビュー時)
⇒ 「大村の黒銀の王」/「地脈の怪物」(新人リーグ完全戴冠時)
⇒ 「鳴門の土地神」(SG王座特区戦・予選トップ通過時)
⇒ 「物理の王」/「二代目・不死鳥」(第3部〜第6部・G2海王決定戦制覇時)
■ 事故・減点履歴(事故点合計:10点)
ボートレース戸田 G3「ウィンターカップ」二日目
事由:不良航法・転舵急激による他艇への妨害
減点:7点(予選突破を崖っぷちに追い込むも、ここから伝説の「六号艇大外の数式」が開眼)
ボートレース津 一般戦 初日
事由:チルト三度強行による転覆(選手責任失格)
減点:3点(チルト三度を永久封印し、低重心接地走法へ転換する契機となる)
ボートレース鳴門 SG「ボートレースクラシック」準優勝戦
事由:四号艇・成宮の故意による暴走ダンプ激突に巻き込まれ転覆・負傷
減点:0点(選手責任外)
影響:右指の重傷、イップス、および「体内マブイの完全消失(空洞化)」を引き起こした最大の惨劇。
■ 主要主要タイトル・優勝実績
2052年12月:ボートレース戸田 G3「ウィンターカップ」【初優勝】
B1級時。不良航法による減点7の地獄から這い上がり、優勝戦「六号艇・大外」から大逆転V。師匠直伝の『揺りかご』の哲学を完全証明。
2053年1月:ボートレース津 一般戦 【優勝】
初日選手責任転覆の最悪の出発から、チルト0.5度「低重心接地レール」にアジャストを切り替え、再び優勝戦「六号艇・大外」から逆転優勝。
2053年3月:ボートレース鳴門 SG「ボートレースクラシック」【予選トップ通過・準優負傷棄権】
初のSG参戦。西野(真空)や三宅(雷)ら神々の二世を圧倒し予選首位。準優1号艇で成宮の妨害によりドクターストップ。(優勝戦は師匠・大二郎が身代わりに出陣し、最年長SG制覇を達成)。
2054年6月:ボートレース宮島 一般戦 【復帰二戦目・復活の一着】
マブイを全損しB1に降格した状態での因縁対決。成宮の『砕鉄』ダンプを純粋な物理ウェイト移動の質量のみで圧殺。「魔法がなくても鉄は重い」と物理の王の帰還を宣言。
2054年8月:ボートレース桐生 ナイター一般戦 【優勝】
超ワーストの「一号機」を引き当てる難所。あかりを頼らず、指先の傷跡をセンサーにして低気圧下の「希薄燃焼」を完全ハッキング。ワースト機からチタンの咆哮を引き出しての大逆転優勝。
2054年8月:ボートレース鳴門 G2「海王決定戦」【優勝・A1級復帰確定】
師匠・大二郎とあかりが一ミクロンずつ調律した「最強の一号機」をハッキング。西野の真空、三宅の雷、杏奈の炎が交差する極限の結界を、純物理の引き算で完全圧殺し予選全勝パーフェクトV。水神祭の冷たい水面にて、マブイ「出力:1」の再起動という新たなる地脈の胎動を検知。




