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からくり競艇【白銀の波切り、魂のフルスロットル】  作者: 水前寺鯉太郎
第六部 イップス編

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「一号機——師匠が残してくれた大地」

真夏の鳴門。モーター抽選会場。

 徳島支部と全国選抜、五十二名のレーサーが揃った。ガラポンが回る乾いた音だけが響いていた。 


「俺は二十四号機ばい! 出足はそこそこ良かばってん、光君の隣だけは絶対に走りたくなかばい~!」


 大峯大輝が泣きべそをかいた。


「五十一号機。悪くない」


 西野和正が冷徹に確認した。


「三十六号機! 速水ごと、俺の雷で消し炭にしてやる!」


 三宅迅がバチバチと火花を散らした。

 彼らの胸の中には、ある共通の恐怖があった——光がワーストを引けば、桐生のように完璧な物理の機体に仕立てる。光が超抜を引けば、物理の操舵と最高の機械が合わさる。どちらに転んでも、勝ち目がない。

 光はガラポンのレバーを握った。銀色の筒が回った。玉が転がり出た。


「速水光選手——モーター番号、一号機!!」


 会場が静まり返った。

 一号機——先月引退した香芝大二郎が、あかりと共に現役最後の意地をかけて仕上げた、鳴門現行最高勝率のエースモーターだ。


「う、嘘だろ……」


 三宅の顔から血の気が引いた。大輝が崩れ落ちた。和正が目元を引きつらせた。

 光は一号機のカウルに右指の傷跡を触れさせた。師匠が残してくれた大地——という感触が来た。

 師匠は大地を残してくれた。では、父は——俺に何かを残してくれたことがあるのか。電話をかけてきた。滋賀へ行けと言った。しかし「大地」という形で何かを残してくれたことは——まだない。


 答えは出ない。


「一号機。師匠が残してくれた最高の相棒だ」


 光はあかりを見た。


「あかりさん、最高の調律を始めよう」


「はいっす!」


 ネが低く一声鳴いた。夏の鳴門の水面が、真昼の太陽を受けて輝いていた。

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