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からくり競艇【白銀の波切り、魂のフルスロットル】  作者: 水前寺鯉太郎
第五部 鳴門王座特区戦編

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63/99

「砕かれた大地——根は、残っている」

三月、鳴門。

「優勝は香芝大二郎。SG優勝最年長記録を達成。負傷した弟子に送る勝利となりました。おめでとう」


 SG・鳴門王座特区戦の優勝戦を制したのは、香芝大二郎だった。六十一歳七ヶ月。かつて打ち立てられたSG最年長記録(六十歳五ヶ月)を更新した。ただ走った。鳴門の波濤が荒れ狂う水面を、圧倒的な力でねじ伏せての戴冠だった。


 しかし、表彰台に立つ師匠の顔に、豪快な笑みはなかった。

 鳴門市内の病院。白い病室。機械的な心拍音が響いていた。

 光は顔と右手に包帯を巻いて、ベッドに横たわっていた。


「……師匠、おめでとうございます」


「がはは、馬鹿者が。わしの優勝より、お前のその面の方がよっぽど一大事だ」


 大二郎の笑い声が、病室に響いた。しかしその声の奥で、何かが波打っていた。

 連日、徳島支部のメンバーが見舞いに来た。大家さんも来た。


「光さん、ネちゃんと一緒に帰ってきなさいよ。鳴門のすだちを持ってきたわ」


 置いていったすだちの香りが、病室に広がった。父の名前で借りた部屋が、光自身の居場所になっていた——という事実を、光はすだちの香りの中で静かに感じた。

 夜になると、杏奈がいた。


「光、また『走れますか』なんて言ったら、今度こそ叩き出すけぇな」


「……言わない」


「……当然じゃ」


 杏奈が光の左手を握った。少し間があった。


「あんたの地は、一度砕かれたことで、前よりもずっと深く、強い岩盤になったんじゃ。……うちは信じとる。あんたがまた、鳴門の潮を切り裂く日を」


「……俺、もっと重くなる」


 光は目を閉じた。

 父は——こんな夜を、知っているのか。弟子の大二郎が優勝した夜に、父は何を感じているのか。電話をかけてくるのか——それとも、黙って見ているのか。

 答えは出ない。ただ、問いは燃えている。消えていない。


 整備室で、あかりは玄武に搭載されていた三十九号機の損傷確認を続けていた。クランクの亀裂。プロペラの歪み。サイドカウルの損傷——一つずつ書き出した。

 直せるものと、直せないものを分けた。直せないものは、交換が必要だ。部品を発注した。


「できることから始めるっすよ」


 誰もいない整備室で、一人で言った。工具を取った。光が次に走る日のために、今夜やれることをやる。

 宿舎のペットスペースで、ネが眠っていた。

 大二郎の優勝。光の負傷。あかりの整備。杏奈の手。

 鳴門の渦潮が、夜の中でいつもと同じように巻いていた。

 速水光、二十歳の春。大地は砕かれた。それでも、根は残っている。


——第二部 完

──速水 光(登録番号:5XXX / 徳島支部・20歳)公式戦績データ【最終決定版】

【現在の級別:A2級】

通算算出期間: 2052年4月 ~ 2053年3月(第1部〜第5部・鳴門SG終了時点)


基本スタッツ(通算マスターデータ)

総出走回数 106走 第1部(下関ルーキー):12走 / 第2部(全国記念戦線):94走

通算勝率 6.31 第1部の貯金(8.86)と、戸田V・津V・鳴門SG予選トップの質量で維持

1着回数 32回 第1部:10回 / 第2部:22回(津V、鳴門SGでの1日2勝等を含む)

2着回数 21回 第1部:2回 / 第2部:19回(江戸川並走戦、鳴門予選での西野戦等)

3着回数 21回 第1部:0回 / 第2部:21回(津での立ち直り、鳴門での身内戦等)

2連対率 50.0%

3連対率 69.8%

通算事故率 0.03 不良航法1回(7点)、選手責任失格1回(3点)。A2審査基準(0.70以下)を大幅クリア


事故・減点・ペナルティ履歴

[!WARNING] 【絶対遵守の減点ログ】

ボートレース戸田 G3「ウィンターカップ」二日目

事由: 不良航法・転舵急激による他艇への妨害 / 減点: 7点

影響: 予選突破を崖っぷちに追い込むも、ここから「大外六号艇伝説」が始まる。

ボートレース津 一般戦 初日

事由: チルト三度強行による転覆(選手責任失格) / 減点: 3点

影響: 玄武のハイドロ大破。これを契機にチルト三度を永久封印し、チルト0.5度の「接地走法」へと開眼。

ボートレース鳴門 SG「ボートレースクラシック」準優勝戦

事由: 四号艇・成宮の故意による暴走ダンプ激突に巻き込まれ転覆・負傷 / 減点: 0点(選手責任外)

影響: ヘルメット大破、顔面および右手の重傷により即時棄権・救急搬送。成宮は妨害失格・即刻退郷(永久追放処分)。


獲得主要タイトル

2052年12月:ボートレース戸田 G3「ウィンターカップ」

【初優出・初優勝】 B1級。不良航法減点7という地獄から、優勝戦「六号艇・大外」から大逆転V。大二郎直伝の『揺りかご』の哲学を、初めて水上の勝利の数式として完全証明した。

2053年1月:ボートレース津 一般戦

【優勝】 初日選手責任転覆という底から、チルト0.5度「低重心接地レール」に切り替え、再び優勝戦「六号艇・大外」からすべてを呑み干す逆転V。

2053年3月:ボートレース鳴門 SG「ボートレースクラシック」

【予選得点率トップ通過・準優負傷棄権】 初出場SG。西野和正(真空)、大峯大輝(熱泥)、繁野谷拓(潮騒)ら神々の二世・レジェンドを「三人分の手の跡」が宿る39号機で圧倒。準優1号艇で成宮のダンプにより大破・ドクターストップ。

航跡の果て: 優勝戦は師匠・香芝大二郎が身代わりに出陣し、史上最年長SG制覇(61歳7ヶ月)を達成。


【速水光 第1部・全戦績リポート】詳細ログ

対象期間: 2052年4月(下関ルーキー特別選抜シリーズ)

期別成績(第1部終了時点): 勝率 8.86 / 2連対率 100% / 3連対率 100% / 事故率 0.00

### ◆ 下関ルーキー特別選抜・主要2レース再現データ

1. 【予選第7レース:予選特賞】

進入コース: 4コース(4号艇)

スタートタイミング: .95(出遅れ失格寸前の極限デッドライン)

決まり手: 抜き(超重量圧成によるインコース強行突破)

着順: 1着

【戦況ログ】

満潮から干潮へと潮が急激に引き変わる魔の転換期。1号艇・丸山優奈が「大気を床に跳ぶ」空中戦術を展開する中、4号艇・玄武はコンマ95という驚異的な超遅アプローチから覚醒。二万のマブイで水面そのものを地獄の底へと押し潰し、優奈の無重力結界を粉砕。2コースから炎の壁を張った南野杏奈の複合連携ごと上空からの重力波で圧殺し、極大の重力航跡を刻んで突き抜けた。


2. 【第12レース:優勝戦】

進入コース: 4コース(4号艇)

スタートタイミング: .12(覚醒を証明する鋭いスリット)

決まり手: まくり差し(超高圧重力冷却による黒曜石のターンのロジックに準拠)

着順: 1着(シリーズ完全制覇)

【戦況ログ】

2周目バックストレッチ、南野杏奈の「剥き出しの純粋な炎」を重力波で強制吸収し、玄武はさらなる圧倒的な質量を纏う。

最終ターンマーク、下関の絶対女王・勝元麻帆の絶対奥義「極熔・大炎上」により水面は本物の溶岩の海へと変貌。激突の衝撃で地脈との「根」が一時消失する絶望の淵に立たされるも、ピット裏の相棒「ネ」の咆哮により、父と母の記憶を宿す新たな根が覚醒。二つの巨大な熱量を重力波で一括吸収・冷却し、溶岩を「黒曜石の結晶」へと瞬時に変質させ、完璧な一本の滑走路に変えて完全圧殺。真紅の魔戦艇を突き放し、新たなる重力の王の誕生を告げた。

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