「共同作業——これが俺たちの、最初のだ」
十二月。徳島の冬空。
「……っ、うわっ! 優奈ちゃんからラインがアホほど来とる!!」
助手席の杏奈が叫んだ。スマホの画面に丸山優奈からのメッセージが溢れている。
「杏奈ちゃん、どこ!? 先行入場始まっちゃうよ!」
「丸山さん!? なんで徳島に——」
「先月から徳島支部でコスプレの練習してるって言ってたろ。もしかして忘れてたのか」
光は言った。
「そうじゃったか! でもそれより——うち、今回主役級のキャラで、衣装のメンテもウィッグのセットも終わってないんよ!!」
杏奈はサンバイザーを下げ、ピンセットを操って猛烈な勢いでアイラインを引き始めた。その集中力は、戸田の優勝戦でチルト〇・五度を縫い付けた光のそれにも勝る正確さとスピードだ。
「分かった。俺は車を安定させることに集中する」
光は全神経を地脈に集中させた。路面の振動を拾わないように、速度を一定に保つ。
「……よし! ベース完了! 次はつけまじゃ!」
ピンセットで繊細に睫毛を並べる杏奈の横顔を見て、光の脳裏に昨夜の記憶が蘇った——
「……ひ、光! 今ちょっと揺れたろ!?」
「す、すまん——地脈が乱れた」
杏奈が一秒だけ光を見た。それから、ピンセットを戻した。「……バカ」と小声で言った。
後部座席でネが、流れる景色を眺めていた。
「優奈ちゃんには『渋滞にハマった』って送ったけど……あの子、勘が鋭いんよ。絶対バレとるわ……」
「気にするな。間に合わせることが先だ」
光はアクセルを踏み込んだ。徳島の道を一直線に走った。
「うちと光の、共同作業じゃけんな!」
杏奈の言葉を聞きながら、光は思った——これが俺たちの、最初の共同作業か。
「あと十分で会場だ」
「よっしゃ!」
メイクを終え、ウィッグを被った杏奈が不敵に笑った。G3の優勝戦に匹敵する「炎」が瞳に宿っていた。
「……っていうか、何のキャラをやるんだ」
「来てから分かる!」
会場の巨大駐車場に滑り込んだ。ネが後部座席で伸びをした。
「光」杏奈がドアに手をかけながら言った。「……見ててくれよ」
「ああ」
駐車場から、会場の音楽が微かに聞こえてきた。
杏奈が「行くで!」と言って、ドアを開けた。




