第13話:地脈修行 ―― 大地の底へ
下関、神隠しの山。その奥底に口を開ける“地脈の洞”。
勝元麻帆が、地熱を帯びた手で蔦を払い除け、漆黒の入り口を指し示した。
「ここが大地の本能が眠る聖域。地属性の者だけが立ち入りを許される、純粋なマブイの墓場よ」
光は入り口から漂い出す、鉛のような冷気に息を呑んだ。一五〇〇〇の外付けマブイが、惑星の鼓動に共鳴し、狂ったように暴れ始める。
「光くん、気をつけて。洞窟の周期があなたのマブイを呑み込もうとしているわ」
丸山優奈が、銀髪を激しくなびかせながら風の檻を構築する。
「光、そんな情けない顔すんな! うちがこの闇ごと焼き払ったる!」
南野杏奈の炎が、一寸先も見えない闇を紅蓮に染め抜いた。
奥へ進むほど、空気は湿り気を増し、重力は数倍へと跳ね上がった。壁面の結晶が内臓を揺さぶる震動を上げている。
麻帆は背を向けたまま、重く吐露した。
「私は新人の頃、マブイの暴走で連続フライングを喫した。斡旋停止。選手として死んだも同然の屈辱だったわ。地属性という地味な才能が許せなかった。だから、この場所で自分の器に怒りの炎を流し込んだ。内側から焼き切られ、再構築された果てに生まれたのが、この『溶岩』よ」
麻帆が振り返る。その瞳は深紅に輝いていた。それは天賦の才などではない。絶望の淵で自らを壊した者の「呪い」だ。
「地は耐えるだけでは脆く崩れる。光、自分という形を捨てる覚悟を決めなさい」
最深部。地割れの深淵から、マグマの如きマブイが間欠泉となって噴き出していた。
ド、ンッ!!
「……っ、が、あああ!!」
光は膝を突いた。一五〇〇〇のマブイが、肉体を内側から突き破ろうと膨張する。
「光くん!!」
「戻れ、死ぬぞ!!」
優奈と杏奈が叫び、必死に光を圧迫から守ろうとマブイを振り絞る。だが、彼女たちの防護すら、大地の重圧にミシミシと軋み始めた。
光は血の涙が滲む視界で、地割れを見据えた。
(……死ぬのは怖くない。でも、あいつらと走れなくなるのは、嫌や)
「光。大地を御する王になるか、ただの土塊として消えるか。選びなさい」
麻帆の引導。光は灼熱の地面を掴み、そのまま深淵へと身を投げ出した。
意識が溶ける。分子レベルで土へ還ろうとする甘美な消滅の予感。脳裏に、惑星の意志が直接響いた。
――沈メ。全テヲ捨テ、個ヲ消シ、我ラト一ツニナレ。
「……嫌や。俺は、速水光や!」
――地ハ万物ヲ静止サセルモノ。終焉ノ属性ナリ。
「止まってたまるか!! 地は……沈んだ分だけ、高く、遠くへ飛び出すためのバネなんや!! 俺が地を使うんや、地に使われるんやない!!」
ドォォォォォン!!
光の咆哮とともに、地割れの奔流が、逆に光の身体へと渦を巻いて収束した。
「大地の光を……自分の中に呑み込んでいく!?」
優奈が息を呑み、杏奈の瞳に歓喜の火が灯る。
麻帆は、光の中に、自らの溶岩とは別の「黒銀の進化」を見た。
光の身体が、眠りの繭の中へと沈んでいく。
それは死への沈下ではない。最強の「不動」と、それを打ち出す「爆速」を手に入れるための、王の休息。
「……大村で……必ず、一番を獲る……!」
光の声が、地底に深く刻み込まれた。
新人リーグ開幕まで、あと十四日。
奈落の底で、王者が静かに眼を見開いた。




