兄弟
168話目です。
魔導学園都市マギステリウム。
とある書斎。
アルケイン卿は顎に手を当て、静かに呟いていた。
「死の経験……。
恐怖の克服……。
だが、魂に震えは一切なかった……」
机の上の蝋燭の火が、わずかに揺らめく。
そしてアルケイン卿は目を細めた。
「……あの魂の定着の仕方……」
短く息を吐く。
「転生者に違いない……」
しかしすぐに、眉をわずかに寄せた。
「だが妙だ……。
自覚のない転生など……」
「……今まで、あったか……?」
アルケイン卿は再び黙り込み、揺れる蝋燭の火をじっと見つめた。
そしてわずかに笑みを浮かべた。
「師弟揃って、こうも厄介とは⋯。
⋯ふっ。⋯⋯腕が鳴るな⋯」
手元の資料に目を通しながら続けて呟く。
「他の者も、想定以上によくやっておるようだな⋯。
出来損ないの勇者には可哀想なことをしたが⋯
試練とはそういうものだ⋯。
さて、ちゃんと地獄を見ておればよいがな⋯」
アルケイン卿は天井を見上げ、目を瞑った。
「ヴェルネイド⋯。
どうやらお主の勝ちのようだな⋯。
死んでしまっては最早意味もなさんが⋯⋯」
コンコン―――。
「⋯入れ」
アルケイン卿の書斎を訪れる者はほとんどいない。
このマギステリウムのどこを探してもそんな書斎などない。
たとえ用事があってもこの書斎にはアルケイン卿しかたどり着けない。
はずだった。
「なぜワシだと⋯?」
書斎の扉の前には、一人の老人が立っていた。
「白々しい⋯!
お前しかこれんだろう⋯?」
「さすが、大賢者様⋯」
老人はアルケイン卿を茶化すように笑みを浮かべた。
「こっちのセリフだ、たわけが⋯。
で、何用だ?たまにはまともなのにしてくれよ⋯?」
「こちらに送り届けた未熟者共はうまくやってるか?」
「はぁ⋯。お前の仕業だったのか⋯」
「まあ半分は偶然だったけどな…」
「あの"小屋"はどうした…?」
「ああ、あれか。ちゃんと責務を全うしたよ…」
「なるほど…。まさか、そこか…?」
「そこ?何かあったのか?」
「いや、自覚なき転生を行った者がおってな…。
テオドール、何かわかるか…?」
「ワシにわかるわけがなかろう…!」
「また研究対象が現れたな…」
「久しぶりに見たな…。"兄さん"のそんな楽しそうなところ…」
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