マギステリウム
152話目です。
マギステリウムへの道は遠かった。
行けども行けども辿り着かない。
気候や昼夜も幾度となく変わる。
だが、いつもの文句が聞こえない。
彼女は優雅に座っているのだ。
何故ならここは、観光用馬車の中だからだ。
西大陸では、"千年竜の背骨"は有名な観光地。
マギステリウムとの直通の馬車が出ている。
馬車は広かった。
大きい作りだということもあるが、
空間を支配する最大の要因がそこにいなかったからだ。
しかしそれは移動し始めた頃に皆、消化してしまった。
「ハァ~、ほんと、なんて楽なの…!
他の大陸に行ったらまず、これを普及させましょうよ!
その為なら何でもやってやるわ…!」
「すげー便利だもんな!
自前の馬車なんてのもありだよな!」
「暑い時も寒い時も快適に移動できますしね」
「このだだっ広い世界を、
歩いて回ろうってこと自体がおかしな話なんだよ」
『転移魔法陣にどうやっていれるんだよ。
ひらけた場所ならいいけど、
小高い山の上なんてこともあり得るんだから、
自前の馬車は無しだね。
辻馬車を見つけるか、今乗ってる馬車じゃないとね…』
「おい!大将!夢がねぇな!夢が!」
「そうだぜ!オリバー!
そんなことわかってんだよ!」
『……ほんとに?』
「え、いや、…ああ!ホントだ!」
『ふーん。そりゃ話の腰を折って悪かったねー』
仮面で見えないが、
恐らくジトッとした目でガッツを見ていることだろう。
「私は最初からそんなこと言ってないからね!
普及させようって言ってるの!」
「わーったよ!声がでけーんだよヒルダは!」
「いやいや、ガッツ。
お前もだぜ…?」
そのやり取りの最中、オリバーは姿を消していた。
馬車の上にいたのだ。
『みんな!大きい都市が見えてきたよ!』
街は遠目にも異様だった。
空へ伸びる塔が幾重にも並び、
その周囲に街が層のように広がっている。
学院を中心に街が後から広がったのだと、
一目でわかる景色だった。
整然とした区画の外側に、雑多な街並みが重なっている。
魔導学院マギステリウム。
巨大な学院を核に膨れ上がった都市が広がっていた。
「すげーな!魔道具が空飛んでるぜ!
あれは…?荷物を運んでんのか!」
「街の人もオリバーさんのような魔法の使い方をしてますね」
「古代森族の集落なんじゃねぇか?」
「こんなにいるんなら、あの時の妖精の話はなんだったのよ…」
「あ?あん時の妖精?
それ、俺が知ってる話か?」
『前にね、妖精が言ってたんだ。
古代森族は滅んだ種族だって』
「そうか。じゃあ俺の説はちげぇんだな。
ならこれはどういう原理なんだろうな…」
「そんなこと今はいいじゃん!
それよりあの魔道具だよ!
ほら!あっちのあれも!
どっかで売ってねーのかな!?」
『気になることだらけだけど、今は"あそこ"に行こう』
オリバーの指差す先には、幾重にも伸びる塔。
魔導学院マギステリウムだ。
「とりあえず、門を叩いてみっか!」
マギステリウムまでの道は、案内板まで用意され、
初めて来ても迷わない程に整理されていた。
「でけーなー……」
ガッツは塔を見上げながら圧倒されていた。
『すみません。
ここで魔法を学びたいんですけど、
どうやったら入れますか?』
オリバーは、門番に声をかけていた。
「入学希望者か…?
今は時期ではないが、
学びに来た者を突き返すようなことはしない。
今、人を呼んでくる。少し待っていろ」
(意外と親切なんだな…)
暫く待っていたが、先程の門番は帰ってこなかった。
まだか。と思っていたその時。
荘厳で巨大な門が、轟音を立てゆっくりと開いた。
『え?入れってこと…?』
「とりあえず行ってみましょ!」
学院内部は縦にも横にも広く、沢山の廊下と扉があった。
どの廊下も同じ景色が続いていた。
まるで迷宮そのものだった。
勝手に入ったことを後悔しようとしていた時。
眼前に、目に見えるほど濃い魔力の帯が、道を示していた。
オリバーはそれを手繰り寄せるように歩みを進めた。
皆もその後を不思議そうな顔でついていく。
学院は、一つも物音を立ててはいけないと思ってしまう程に静かで、
オリバーたちの足音だけが静かに響いていた。
どれだけ歩いたかわからない。
幾つもの階段を上り、気付けば床は遥か下にあった。
「外から見るより広くねぇか…?」
「これも魔法なんだよきっと…!」
『声が響く…。静かに行こう…』
そして、魔力の帯が途切れた。
目の前には、
この先が同じ世界とは思えないほど、
異様な魔力を放つ扉があった。
そしてその先には、一人の老人が窓際に佇んでいた。
その老人は振り返りもせず言った。
「……よく来たね」
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