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第69話 二人の覚悟

 部屋の中は空気が循環していない。傭兵達の汗の匂いが漂い、その匂いのように見えない“過去の臭気”がアオイとヒスイの胸やけを誘う。


「あなた達は似ている、いや同じ顔をしているの。アオイさんがミライ、ヒスイさんがミスズ…」


 ヒスイは思い当ることがあった。スガル平地。ヒスイは、あの光と闇が乱舞した時に見た“小さな戦士”、いやアオイを、


「ミライだと思った…」


 のだ。きっと話に出てくる双子はアオイとヒスイの前世なのだろう。


「私の話は、憶測も混ぜている。だからすべてを鵜呑みにしないでほしいです。ただ、あの二人は“闇の魔素”を持っていた。それがあの悪魔を呼び寄せたのではないかと、今は思っている」


 アオイは黙って聞いていた。


「あの出来事の後、“混沌の魔人”が“500年前の封印”を“六所の呪い”で強化した。おかげで魔国は“変質した魔素”に覆われ、生活もままならない。でも、それ以降、あんなおっかない遺跡は見つからなくなった。偶然だと思っていた」


 マーニの目の奥には恐怖の色が見えた。


「あんた達が封印の解呪を始めてから、魔国各地で古代期の遺跡が見つかるようになった。もう、これは偶然じゃない」


 マーニの腕は細かく震えていた。相当な力が入っているのだろう。


「もうやめた方が良い。六所の“呪い”は“祝い”だったんだ…。ミライとミスズならわかるはずだ…」


 しばらくの沈黙。そしてその沈黙を破ったのはアオイだった。


「マーニさんありがとう。話が聞けて良かった。感謝している。でも、六所の封印は解く。前世からの因縁があるならなおさらだ。この考えは揺らがない…」


 アオイの答えにマーニはがっくりと肩を落とした。そしてアマノを仰ぎ見て言った。


「ミライならこう言うと思います。無理を言って会わせてもらって、悪かった。礼を言う。ミライ、いやアオイさん、ヒスイさん。二人はこう言っていた。

――――私達は生まれてくるときに魂を分かつた。それは闇を一人じゃ抱えきれなかったからだ、と。

つきなみな言葉だが、真実だ。二人で力を合わせれば道は開ける…」


 マーニはアマノに礼をして部屋を出ていった。出がけに資料だと言って数枚の古文書を置いて行った。


「アオイさん、マーニを何も言わずに連れてきて、ごめんなさい。でも、マーニが言う事は確かよ。裏は取ってある。これは覚悟の問題。国も、個人としても。アオイさんとヒスイさんはどう?」


 アオイはヒスイの手を握った。ヒスイも心は決まっている。声は重なった。


「「解く」」


 アマノは頷いた。


「ベルク陛下もダスティス陛下も、是、よ」—————解く、この国の行く末を見届けるのがヒスイの覚悟だった

「でもさ、アマノさん。やるからにはちゃんと準備は必要だよ。モールスに話をきこう」


 アオイはこういう時に頼もしいのだ。





 魔都の最深部。そこは“混沌の魔人”が施した強力な要石が安置されている。そしてそこは今、リッチのモールスが守護している。アオイとヒスイ、そしてアマノ。四人で“棺”を見つめていた。


「こんなところが…」


 アマノも絶句していた。確かに世界の深部と言えよう。


「モールス、ありがとう。守護を引き受けてくれて」


 モールスは丁寧な例をアオイへ返した。


「モールス、この古文書を読める?」

「お時間をいただければ…」


 アオイはモールスへマーニからもらった古文書を手渡した。


「“魔神”というそうだ。古代の超兵器。この“古代の魔法陣”にもこのような古代の兵器が眠っている可能性はないの?」


 このアオイの問いに、意外にもモールスは即答した。


「あり得ますな。この数日、研究させていただきました。これは“闇の魔素”を使って何かを操る装置に見えます。それが古代の兵器という可能性はございます」


 ヒスイはモールスの言い様に真実なのだなと感じていた。


「もう一つ、六所の呪いとは何なの?」


 このアオイの問いに、モールスは答えるのを躊躇したが、結局は語りだした。


「試練でございます。ルーク様は“巫女の試練”と仰っていました。それにこの呪いは…」


「モールスありがとう。腑に落ちた。“六所の呪い”はまるで私を試すようなものばかりじゃないか…。それに“この呪い”を私は知識として知っている」


 ヒスイは背筋が凍ったような感覚を覚えた。———アオイは覚悟をしている。


「可逆だ。私が最後の封印を解くに値しない場合、六所の呪いは復活する」



 このアオイの告白は、ヒスイとアマノにとって衝撃だった。ヒスイは目の前が暗くなり、得体のしれない恐怖を感じた。


「あ、アオイ、可逆ってどういう…」

「ルークが死んだ時、私は“知識”を受け取った。その中にあるんだ。『最終解呪者の“闇の魔素”量が基準に達しない場合は、“解呪者の死”と“呪いの復活”』

「アオイ様はそこまでご存じだったのですね。解呪は命がけでございますよ…」


 ヒスイはモールスの言葉に、現実感を覚えられなかった。ただただ、アオイを失ってしまうのではないかという、夢の中の出来事のような喪失感があった。





 明日、最後の6封印へ出発する。その前日、アオイとヒスイは魔都を歩いていた。封印は残すところ、後一つである。魔国を覆っていた魔素は徐々に薄まっている。それとともに街に少しの活気が戻ってきていた。


「ヒスイ!このお店に入ろうよ。何かすごい魔素を感じるよ」


 アオイとヒスイは朝から魔都を歩いていた。ものものしい雰囲気は変わらなかったが兵士達もアオイとヒスイには配慮しており、二人にとって居心地が悪いことはなかった。

 その日、アオイとヒスイはバールミン領都で買ったおそろいのネックレスをつけていた。ブルートパーズと翡翠が胸元に光る…。


「確かに!すごい魔素ですね」


 ヒスイは恐る恐るお店のドアを開いた。


「わあ、アオイ。みてください!かなり古い時代の魔道具ですよ」


 中には多種多様な魔道具が並べられていた。その大半は壊れていたが、ヒスイの目に一つの魔道具が止まる。それは影絵が浮かびあがるランプだった。


「昔の絵だね。こうして見ると今も昔も人の営みは変わらないね」


 そのランプの影絵は食卓を囲む家族の様子を浮かび上がらせていた。


「ええ。人は循環するんです。私たちの魂もそう。螺旋に循環している。ねえ、アオイ。呪いは“幸せの循環”を妨げる不自然な力です。解呪しないとなりません」


 アオイはヒスイの言葉を噛み締めていた。


「幸せの循環か…。そうだね。もう少しだ。もう少しだけ、私に力を貸してね」

「アオイ、何言っているんですか?私はずっとアオイの力になりたいですよ」

「そうか。そうだった。ありがとう、ヒスイ」


 魔法のランプはくるくると回り、幸せの影絵を次々と映し出していた。



 


 その日、アオイとヒスイは魔都の色々な場所を巡った。魔石の販売所や奴隷市場や、魔道具の店。

 魔都は変わっていた。そして封印を解放することで、魔国が幸せとなることをヒスイは疑っていなかった。

 気がつくともう太陽は地平線へと沈みかけていた。


「アオイ!見てください!すごくきれいな夕日」


 魔都を覆っていた魔素は封印を五つまで解呪したことで大幅に少なくなっていた。霧のように仄暗く漂っていた魔素が少なくなったことで空気が澄み、青空や夕日、星空がとてもきれいに見えるようになっていた。


「この景色はアオイが作りだしたんですよ。私はとても誇らしいです」


 ちょっと照れたように言うヒスイの顔を夕日が照らした。アオイはその光景がとてもまぶしく感じられた。


「うん。色々な人の思いや力が、成し遂げたことだよ」

「それでもです。アオイがいなかったら始まらなかった。私はそう思っています。この景色を見せてくれたのはアオイです。ありがとう」


 アオイは背中の鞄から包みを取り出すとヒスイに手渡した。


「何ですか?」

「開けてみてよ」


 それは影絵を映し出す魔法のランプだった。


「うわー。うれしいな。先に見たランプですね」


 ヒスイはランプを手に取るとくるくると影絵を回した。


「高かったんだから、大事にしてよね」

「はい、ありがとうございます!大事にします!」


 ヒスイが喜ぶ姿を見ながらアオイは思いを新たにしていた。—————ヒスイと初めて会った日。アスラの王都ではこの影絵のような幸せな生活を、ヒスイと一緒に歩きながら感じていた。


『この影絵のように“幸せが循環した世を!!魔国は解放する。そして、ヒスイは私が守る』




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