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第68話 邪神

「今日はよろしくお願いします」


 翌日、朝早く。ミライが挨拶したのは一緒に古代遺跡の調査を行う事になったA級冒険者チームのリーダー、ヨルダだった。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 ヨルダのチームは四人編成の勢いのあるチームだ。


「こちらこそです。最近、話題になっていますね。私達も負けないようにがんばらないと」


 今日、調査予定の遺跡は耕作中の農夫が発見した。巧妙に隠蔽されていたこの遺跡の中は瘴気が渦巻き、低ランクの者は入れもしないという。

 ヨルダのチームの一人は遺跡調査のエキスパートだった。


「マーニさんが先頭に立ってくれるだけで心強いですよ」


 双子とマーニは古くからの知り合いだった。数回、一緒に遺跡調査もしている。気心も知れていた。


「今日の遺跡は不気味なの…。ミスズさんとミライさんを当てにしている…」

「はい、まかせてください。私達、こう見えて結構強いんですよ」


 ミスズの答えに皆がわいた。


「ははは、最強姉妹がいたら怖いものなしだ!早く終わらせて一杯やろうぜ!!」


 マーニは今日の仕事がうまくいくことを疑っていなかった。




 

 昼過ぎに六人は調査対象の遺跡へと辿り着いた。


「マーニ、どうだ?」

「うーん、古代期の遺跡ね。でも変ね?最近、発見されたと聞いたんだけど…。最近?いや、何十年も前に出入りしていたような形跡があるの…。大厄災の前かなあ…?」


 ミライはその言葉を聞いた途端、激しい頭痛に襲われた。


「ちょっとお姉ちゃん、大丈夫?」


 倒れそうになったミライをミスズが支える。その時、ミライは強烈な思念を感じていた。


「デュラハン…、闇の兵器…、くっ、頭が割れそうだ…」

「ミライ、ミライ!誰か!ヒーリングを!」


 ミライの頭痛は思念と一緒に引いていった。


「ミライさん。先程、口にしていたのは魔法国時代の教王の名前よね?」


 マーニが訝しみながらミライへと問いかけた。


「そうだと思う。頭の中にデュラハンのとてつもなく邪悪な野望が流れてきたの…」

「そ、それは?どういう…こと?」


 ミライは力なく首を振った。


「ごめん、よくわからない…。でもこの遺跡には何かがある。邪悪な何かが…」


 ヨルダは肩をすくめながら皆に声をかけた。


「今ここで詮索しても始まらない。ミライさんは行けそうかな?」


 ミライは大きく息を吸うと、不安を隠しながら元気に答えた。


「うん、行ける。私はもう大丈夫」


 ミスズと視線が合ったが、頷き返す。ミライはミスズに心配させたくなかった。


「この妖気は何とかならないのかしら…」


 マーニが愚痴る程に濃い妖気が漂っていた。絶えずレジストしないと意識を保てないのだ。それでも、ミライ達は古代遺跡の奥へ奥へと何かに誘われるように進んでいた。


「お姉ちゃん、やっぱりここは変だよ。人が来ては行けない場所なんだと思う…」

「ミスズ…、人が来ては行けない場所って?」

「そう…。ここに満ちている魔素は禍々し過ぎる」


 ミライは遺跡へ入ってから、ずっと粘りつくような嫌な視線を感じていた。


「そうだな。このままだと魔力切れを起こしてしまう。一旦、戻って立て直そう」


 ヨルダが決断した時だった。それまで静かだった遺跡に異変が起こる。


ガサガサガサガサ


「ミライ!気をつけて!何かが来る!」


 ミスズの警告にミライはすぐに剣を抜いた。闇の魔素を刀身へ宿す。辺りがシーンと静まり返った。


「う、うわー」


 叫び声を残してヨルダの隣にいた剣士が姿を消した。


「くそ!皆な、背中合わせに!」


 残った五人は互いに背中合わせになった。


「うわ!ダメだ!俺たちはここでやられるんだ!」

「落ち着け!」


 カサカサカサ


 足元から音がした。掌ほどの石でできた蜘蛛のような物体が無数に這い回っていた。


「ヨルダさん!このまま攻撃されたら助からない。奥へ走り抜けましょう」


 ミライの言葉にヨルダはギョッとした顔をしたが、すぐに決断した。


「皆、奥へ走れ!」


 ヨルダの声と同時に蜘蛛が飛びついてきた。剣士がひとり蜘蛛に腹を千切られて、悶絶する。皆の行動は早かった。通路を駆けた。ミライもミスズも後ろを振り向かなかった。


「ぐあああー」


 ひどく恐ろしい叫び声が後ろから聞こえたが、声を振り切るように懸命に足を動かした。ミライもミスズも肩で息をしていた。どのくらい走っただろう。気がつくと近くにヨルダとマーニがいた。


「助けられなかった…」


 ヨルダが呟くように言ったが、ミライはそれが不可能であった事をわかっていた。


「それにしてもここは…。いっそう妖気が濃い…」


 マーニは顔を歪めながら耐えるように言った。


「お、お姉ちゃん!!」


 その時、ミライは遺跡の奥底にそれを見た。


「生き物なの…??」


 ミスズの呟く声は震えていた。それは醜悪な姿をしていた。巨大だ。あまりに禍々しい多大な魔素!空間が歪んで見える程に。歪な存在。この世に存在してはいけない古代の兵器。


「悪魔!」


 ミライは絶叫した。ダメだ。あれに関わってはいけない。ミライの本能がそう囁きかけた。

 それは他の三人も同じだった。人に備わる根源的な恐怖を刺激された。


「に、に、逃げ…」


 誰の言葉かはわからなかった。逃げようとした四人へそれは突然に起きた。


『我と相対するには矮小だ…』


 その言葉はミライやミスズの頭の中に直接響いてきた。ミライは震えが止まらなかった。それでも何とか剣を抜き、闇の魔素を刀身へ纏わせた。


 悪魔が動いた。いや、古代兵器は巨大な鎖に繋がれている。動いたのは悪魔の…。


「頭!」


 古代兵器は人型だった。今、その頭が落ち、造悪な形へと変貌した。顎の下からムカデのような足が何本も生えた。舌が伸び、悪臭を放つ。目が飛び出して眼窩から垂れ下がった。その眼窩から落ちる液体は地面に触れて蒸発した。


「うっ、うわー」


 ヨルダが刀身に魔素を込めて光の刃とし、魔神へと放った。


「ヨルダさん!ダメだ!」


 光の刃は頭へ届かなかった。あまりに強い魔素に阻まれて霧散した。


『プシュー』


 奇妙な音と共に悪魔はヨルダに向かって舌を突き出した。その先端が尖り、ヨルダの頭を貫く。ビシャっという音と共にヨルダは脳髄を撒き散らしてその場に倒れた。


「ミスズ!逃げて!私が足止めする!」


 ミライは必死だった。大好きな妹、結婚する言ったときに喜んでくれた顔、いつも寄り添ってくれたかわいい妹、冒険に出る時の明るく頼り甲斐のある妹。

 ミスズには幸せになってほしい。ミライの強い願いだった。


(それに。それにこいつをこの遺跡から出しちゃダメだ!)


 ミライは魔素を練り、闇の玉を無数に作り出し、悪魔へと放った。しかし、魔法は届かない。


「でやー」

「ミスズ!」


 ミスズの気合いを乗せた上段からの力強い斬撃は悪魔のこめかみをとらえたかに見えた。


「剣が!」


 ミスズの振るった剣は悪魔の魔素に阻まれて、その根本から折れていた。


「こいつを遺跡の外へ出しちゃダメだ!ミスズ、私はあなたを置いてなんて逃げられない…」


 悪魔が目玉のない窪んだ穴でミライとミスズを見据えた。


『ドガン』


 悪魔の上の天井が崩れ落ち、大きな石塊が頭上に落ちた。しかし、ぶるっと震えた悪魔の動きで石塊は粉砕した。悪魔の視線は石を落としたマーニをとらえた。


「マーニさん!早く逃げて!」


 悪魔から放たれた闇の魔素がマーニの近くの壁を粉砕した。


「ヨルダの仇なんだ…」


 ミライを見てぎこちなく笑いかけたマーニは跳ね飛ばされた石に弾かれて見えなくなった。


「マーニさん!」


 だがミライにもミスズにもマーニを助ける余裕はなかった。


「ミスズ!来る!!」


 闇の魔法だった。大きく開いた口から闇の魔素の濁流が二人へと放たれた。


「お、お姉ちゃん!」


 ミライは剣を前に構えるとミスズの前に出て必死にレジストした。


「ミスズ!ミスズ!ミスズは私が!」


 ミスズもミライを背中から抱きしめ、魔素を全身に循環させてミライと一緒にレジストする。悪魔の魔法は二人の命を飲みこんでしまおうと暴れ回る。


「お姉ちゃん!」

「ミスズ!」


 二人は強く、強く結び付いていた。同じ魂から分かつた命。姉妹であるが故に、お互いに思い合っているが故に、かけがえのない存在であるが故に。

 その魔素の繋がりは二人の魂を回廊となって繋げた。闇の魔素が共有される。


「お姉ちゃん、ごめん。結婚を祝ってあげられなくて…」

「ううん、私は最後までミスズと一緒にいられてうれしいよ」


 そして二人は決意した。


「ミスズ、あれは外に出しては行けない。ごめん、一緒に…」


 ミライはその後に何と言おうとしたのか?だがミスズにはそんな事はどうでも良かった。小さい頃に姉と小さな森へ冒険に出かけたことを思い出した。一緒に…。


「うん」


 二人は命を燃やした。ありったけの魔素を込めて闇の魔法を放つ。それは悪魔の前では小さな、小さな力だった。だが二人の思いは奇跡を起こした。二人の闇の魔素が二人の魂を通じて合わさり、大きな濁流となったのだ。悪魔の動きが止まった。悪魔の頭が二人の最後の魔法の軌跡に導かれるように、その体へと押し返される。


「お姉ちゃん!」

「ミスズ!」


 それが二人の最後の言葉だった。二人の命はその魂を結びつけながら燃え尽きた。古代兵器を再び眠りにつかせて…。

 




 マーニは暗い遺跡の中で目を覚ました。あれだけ濃く漂っていた妖気は、もう無い。


「ミライさん!ミスズさん!」


 マーニの呼びかけに答える声はなかった。


「ミライさん!ミスズさん!」


 マーニには一つの確信があった。ミライとミスズが命をかけて古代兵器を鎮めたのだという確信が。


「この遺跡は開けてはならない…」


 マーニは痛む身体を引きずって遺跡の出口へと向かった。

 この遺跡を再び眠りにつかせるために。ミライとミスズ。そして遺跡で散った仲間の死を無駄にしないために。マーニは後ろを振り返らない。


「遺跡の外へ…」


 そしてこの遺跡は封印される。しかし、悪意の種は未知数なのだ――――それからマーニは遺跡の調査に奔走した。エルフの長い寿命をかけて、ミライとミスズに報いるために。



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