第67話 双子
魔都。濃い魔素に覆われており、住みにくい都市だ。それでもだいぶん暮らしやすくなってきた。住人の表情も明るくなってきた。アオイ達は6封印へ挑む前に装備を整えに戻ってきていた。
二人が魔都に戻ってくると、予想もしなかった人物がいた。その人物はこの濃くて不快な魔素の中、優雅にカップを傾けていた。
「なんでアマノさんがいるのよ」
アマノ女医は不敵な笑みを浮かべると、静かにカップを置いた。黒いどろどろした液体が入っている。————まずそうなテクスチャーをしているな…ヒスイは思った。
「二人に会わせたい人がいて、待っていたのよ…」
アマノの後ろから、エルフの女性が現れた。スレンダーだが身のこなしが、剣術をかじった人の動きだった。アオイとヒスイを見る目が憂いを帯びていた。
「アマノに無理を言って、来てよかった…」
その人は眼に涙を浮かべて泣き始めた。
「あの、汗臭い部屋で良ければ、案内しますが…」
見かねたマルシムが傭兵隊の休憩室を確保した。休憩していた隊員はマルシムに体よく追い払われていた。そして四人分の席を用意すると、
「人払いしておきますので」
そう言うと、さっと居なくなった。————すごいな、マルシムは。とヒスイは感嘆していた。しかし、アマノはそんなヒスイの思いなどみじんも考慮しない。いきなり本題を投げつけてきた。
「意見を聞きたかったのよ。『混沌の魔人』の娘であるあなたに…」
ヒスイは思わず立ち上がった。それはヒスイの許容を超えていた。荒い声が出てしまう。
「アマノさん!!アオイは良いって言ったんですか!」
アマノはヒスイの言葉に全く揺るがなかった。アマノの目には覚悟があった。アオイはアマノの覚悟を見て取り、すべてを許容した。
「ヒスイ、ありがとう。大丈夫だから」
アオイはそう言うと、アマノを強い目で見た。
「アマノさんの事は信用しているから」
アマノは黙ってエルフの女性に頷きかけた。その時のアマノの目は真摯だった。
「私はマーニです。遺跡調査を生業にしている。私はあなた達を知っている。思い出してほしい。あの日のことを!そして封印を解かないでほしい…」
アオイとヒスイは顔を見合わせた。マーニの言葉が意外だったからである。
「マーニさん、それはどういう意味ですか?」
アオイとヒスイの疑問にマーニは昔話をしたいという。自分が体験した、あの日の話を聞いてほしいと言う。—————その話は数十年前に始まる。
闇を抱えた魂があった。その魂は、そのあまりに大きな闇を抱えきれなくなった。すると魂は、ぽこんと二つに分かれた。抱えていた闇を分け合って。こうして、二つになった魂は心理の中へ漂い出でる。二つの魂はやがて意識となり、安らぎの場所から、突然に明るく光が満ちた世界へと送り出された。
(怖い…。ここはどこ?)
この恐怖は人の本能なのだろうか?意識は恐怖のあまり大きな声で叫んだ。
「オギャーオギャー」
この叫びは、この世で一番に祝福される叫び声だ。
「ふふふ、私の赤ちゃん達」
恐怖が和らいだのは暖かく柔らかな腕に抱かれ、ドクンドクンという心臓の音と優しい声を聞いた時だった。
「うわー、かわいい!美人な双子ちゃんだよ」
多くの人に祝福されて双子はこの世に送り出された。
「ねえ、この子たちの名前は?」
「うん、この子は"ミライ"。この子は“ミスズ”よ」
ミライとミスズ。双子に与えられた新しい名前だった。
◇
その年、双子は16歳になっていた。美しい容姿。健康的な肢体。二人は村でも評判な娘に育っていた。そして、何より高い魔力。双子は“闇の魔素”を持っていた。
「ミスズ!明日はどうするの?」
「ミライこそ!私はいつでも準備できているんだから!」
二人はA級の冒険者として多くの依頼を受けて生活していた。高い魔力と華麗な剣技で冒険者として名を馳せており、お互いが自慢の姉妹である。明日は別のA級冒険者チームと一緒に古代の遺跡を調査する予定だった。
「そう。それじゃあ、今日はこれからご飯を食べに出かけない?」
「え?ミライが奢ってくれるの?」
「うーん、しょうがないな。たまにはかわいい妹に餌付けしようかな」
「よし、かわいい妹だから餌付けされてやろう」
ミライとミスズ。本当に仲の良い姉妹だった。
二人が住む街は魔都と呼ばれる場所である。かつては魔法国の首都だった。あの惨劇から数100年が経ち、まだ“変質した魔素”に覆われているがそれもだいぶん薄まり、またかつての賑わいが戻ってきていた。
今日、二人はこの街で評判の酒場へとやって来ていた。
「おじちゃん!エール二杯!あと、豚肉の煮込みと、うーん、ピクルスとリエットをちょうだい!」
酒場で席を確保するなり矢継ぎ早に注文する妹をミライは嬉しそうに見ていた。
「で?お姉ちゃん。話はなあに?」
「え?何で?何でわかるの?」
「そりゃあ、長年お姉ちゃんの妹をやっていますからね」
ミスズはえへへと軽やかに笑った。
「エールを飲みながらと思ったんだけど…。私ね、結婚しようと思うんだ」
その答えはミスズにとっては予想外だった。いつも剣を振り回して色気のない姉に結婚を考える彼氏がいたとは思ってもみなかったのだ。
「え?お姉ちゃん、彼氏がいたの?」
「長年、私の妹をやっている割には鈍感ね!」
屈託なく笑う姉を見て、ミスズは姉の幸せを心から願った。
「そうか。私の方が先に結婚すると思っていたんだけどなあ!」
「彼氏もいないあんたが何言ってんのよ…」
ちょうどそこへエールが運ばれて来た。氷魔法で良く冷やされたエール。
「ふふふ、お姉ちゃん!私はうれしいよ!乾杯しよ!」
「そうね」
「それじゃあね、お姉ちゃんの幸せな結婚を願って乾杯!」
ミライとミスズはエールの入ったグラスをカチンと合わせた。
「お姉ちゃん!今度、彼氏を紹介してね。あ!彼氏の友達も紹介してくれて良いんだよ」
ミスズの軽口にミライは笑った。
「あんたは理想が高いからなあ」
「そんな事ないよ。私より強くて優しくてカッコいい人なら大歓迎だよ」
「優しくてカッコいいはまだしも、あんたより強いやつなんてなかなかいないからね…」
はあ、とミスズはため息をついた。
「うーん、まあ気長に探すよ。それで彼氏とはどこで出会ったの??」
「えへへ、それはね…」
姉妹の楽しいおしゃべりは夜がふけるまで続いた。
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