第65話 3封印
「さあ、3封印だ!」
マルシムに見送らせたアオイ達は半日後に3封印へたどり着いた。半日の縦走で、深い森を抜けた。しかし、普通の森ではない。清々しさなど、どこにもない。瘴気に満ちた腐った森である。大森林生まれのマオには、このような異質な森は耐え難かったようで、道中、数度おう吐していた。
「うへえ、この瘴気に充てられちゃったよ」
アオイにヒーリングしてもらいながら、マオは情けなさそうにつぶやいた。
「森に慣れているマオには余計につらいですね」
それでもマオが瘴気に充てられた以外は、順調に塔までたどり着いた。早速、アオイが塔の入口を調べ始める。この塔は今までの封印と違い、“塔の中”にインセクト・モンスターが蔓延っている。
「アオイさん、この饐えた生っぽい匂いは“虫”だね。大森林にもいたよ。この類の匂いがするでっかいやつが…」
アオイは入口を慎重に見ていたが、諦めたらしい。マオに応えながら闇霧を抜いた。
「うん、そうなんだよ。中は虫でいっぱいのはずだよ。ルカ、ちょっと塔の中を探ってくれるかな?」
アオイはそう言うと闇切で塔の入口を切り飛ばした。魔法で何重にも防御された扉が簡単に斬り飛ばされた。
「はい、では」
ルカは塔の入口で風魔法を発動させる。
「これは…。すごくたくさんの魔物が潜んでいます…。千じゃない、万、いや何十万も…」
「うーん。ちょっと中に入ってみるよ」
アオイは闇の魔素を身体に纏うと入口へ足を踏み入れた。
「私も援護します」
ヒスイも竜の魔装を身につけてアオイに続く。
「灯りをつけるよ」
アオイは光魔法で灯りをともした。
「特に何もないね…」
アオイとヒスイは慎重に塔の中を進む。
「アオイ、何かとても嫌な予感がするんですが…」
「あー。ヒスイ、フラグを立てないでー。私も今、すごく思っている…」
ざわっ。ざわざわ。ざわざわ。
暗闇の中、アオイの灯した光魔法がふわっと揺れた。その揺れる光が仄暗い石造りの通路の陰影を、照らした時だった。床が波打ったかと思ったら大小さまざまな大量の“虫”がアオイとヒスイを目掛けて押し寄せてきた。
「ひいー」
「ひ、ヒスイ、撤退だ!撤退!」
アオイとヒスイは慌てて入口へ戻ろうとした。
『ゴゴゴゴゴ』
不気味な音とともに壁が動きだし、アオイとヒスイの行く手を阻もうとする。
「ふん!」
ヒスイは地の魔法で壁の動きを封じた。
「はやくはやく!!」
アオイとヒスイは息を切らしながら塔の外へ飛び出た。
「蓋して!蓋!」
ヒスイは急ぎ、アオイが切り飛ばした塔の入口を魔法で塞ぐ。間一髪、虫が溢れ出るのを防ぐことができた。
「ひー。どうしよう!私には無理だ!」
アオイの懊悩する様子にα班も狼狽える。
「ヒスイ、中に何がいたの?」
「虫!たくさんの虫!!とにかく、たくさん。うー、マオ。どうしよう??」
「えー、虫…」
大森林で育ったマオにとって虫は身近な存在だ。好きではなかったが、それなりに知識もある。
「アオイさん、大森林では住居の虫退治の時は、よく野草を乾燥させて燻していたよ…。臭くなるから僕は嫌いだったけど…」
「闇魔法で何とかできないのですか?毒みたいな感じで…」
マオの言う事は一理あるのだ。しかし、うまく塔内を循環させられるか?
「ルカに地形を風魔法で探知してもらって、地の魔法で密閉できませんかね…」
「ルカ。どう思う?」
「できなくはないでしょうね。先ほど中を探知した感じですと塔の中はらせん構造です。空間的には狭いです。ヒスイさんなら閉鎖できると思います」
ヒスイは大きく頷くと竜の魔装を身につけた。
「皆さん、少し時間をください。ルカと一緒に塔を閉鎖してきます」
「僕も行くよ。護衛がいた方が良いよね」
ヒスイ、マオ、ルカの三人はやおら立ち上がった。ルカが空間探知の魔法を行使する。
「うーん、塔の周りを踏査した方が良さそうですね…」
「ルカさん、行きましょう」
◇
三人は塔の周りを調べることにした。塔の周辺は岩肌が露出した小高い丘になっていた。ルカは歩きながら、空間探知の魔法を使っているようだ。
「空気が地下に流れていますね。空気の出口は…、ああ。あの大きな木の近くですね」
「よし、じゃあ塞ぐよ」
ヒスイは地面に魔素を込めると岩肌を覆うように石を変化させていった。
「ふう。どうですか?ルカさん」
「はい、空気の流入は無くなりましたね。お見事です!」
マオは鼻をひくひくさせながら。辺りの匂いを嗅いでいた。
「うん、あの饐えた生っぽい匂いはしなくなったよ」
三人は塔の周辺をもう一度確認してから、入口へと戻った。ヒスイ達が塔の入口に戻って来た頃には、夕日が塔を照らしていた。
「お疲れ様!どうだった?」
「はい、穴はおおかた塞がっています。さすがはヒスイさんです」
アオイは頷くとおもむろに塔の入口に近づき、闇魔法を発動させた。
「明日の朝までには結果が出ているでしょう」
アオイが使った魔法は闇の魔素を毒として、拡散させるものだった。
しかし、とヒスイは思う。—————この六所の封印という呪いはアオイを試しているようではないか??
そして、ヒスイは“この考えが正鵠なのではないか”と確信する。アオイの身を案じ、ヒスイは深慮した。冷汗が出た。そして、胸の奥になにかモヤモヤする黒い霧が漂っているような感覚に苛まれた。
◇
次の日は朝早くから塔の攻略を開始した。まず、ルカが塔の内部を空間探知魔法で探った。
「どう?」
「うーん、大きな反応が五つ残っていますね」
「その反応のどれかが守護獣かもね。よし、皆。出発しよう」
塔の中は静まりかえっていた。塔は石造りの重厚な造りで、広いとは言えない通路は両側から迫ってくるような威圧感を感じた。稀に織のように淀んでいる所があった。だいだい、そのような場所は虫の死骸が山となって、重なっていた。
「うえー。これは攻略が難しいわけですね。闇魔法の使い手がいないと攻略できなくないですか?」
「これだけの数…、火の魔法で燃やしたら酸欠になる…」
所々で壁が動くなどのトラップがあったが、虫の大軍に追われることを想定したもので、脅威にはならなかった。
「虫がいなかったら迷路攻略も簡単ですね」
ミカヅチがマッピングしながらつぶやいた。
「アオイさん、あと少し先の通路に二つ反応があります」
「皆、抜刀。くるよ。フォースは後方支援。毒に注意。マオは左、右は私。他は、魔法支援!」
通路の先から姿を現したのは人の背丈ほどの二匹の大きな蜂、キラービーだった。アオイとマオはそれぞれキラービーへ切り込んだ。
「動きが速い!」
アオイは六芒丸で切り付けようと間合いを詰める。しかし、キラービーの動きは疾風迅雷だった。光の刃で攻撃するがキラービーの動きは速く、捉えきれない。
「ならば!」
アオイは無数の光の矢を作り出すと絶え間なく、散弾のようにキラービーへ向けて発射した。
キラービーはこの攻撃で動きを封じられる。そこへ後ろからミカヅチが炎の矢を放つ。それはキラービーの腹部を貫いた。アオイはすかさずキラービーとの間合いを詰めると六芒丸で頭を切り飛ばした。
一方、マオはキラービーの動きを読んでいた。しかもマオはキラービーの素早い動きの上を行っていた。身体を風魔法で包みこみ、まさに風の如くキラービーを翻弄していた。
「はっ!」
マオは通路の壁を駆け上がると、そのまま天井を蹴り下げて、キラービーに肉薄する。そして、風の魔剣でその羽を切り落とした。ヒスイは魔法で複数の石槍を作り出す。床から伸びた石槍は、バランスを崩したキラービーの胸部を串刺し、縫い留めた。
マオが串刺しになったキラービーの前に着地する。
「マオ!!気をつけて!!」
ヒスイがマオへ警告した次の瞬間、キラービーは腹部から毒針をマオへ向けて発射した。それは到底避けられない必殺の間合いだった。
「マオ!!」
ヒスイの悲痛な叫びが通路にこだました。
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