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第64話 電磁砲

 その夜はダスティスとマーズの計らいでアオイとヒスイには個室が与えられていた。二人は久しぶりにゆっくりできると喜んでいた。


「ヒスイに電磁銃の刻印を頼まれた時は、あんなにすごい武器になるなんて思わなかったよ」

「実はあれ、プロトタイプなんです」


 得意顔のヒスイにアオイは一気に不安になった。


「ん?ど、どういうことかな?」

「じゃあーん」


 ヒスイは竜の魔装を起動させた。すると左手に見慣れない筒状の物体が装着されている。ヒスイはそれをアオイへ自慢げに見せる。


「電磁砲です!刻印はまだですが…」


 それは両手を伸ばしたほどの長さの筒型で、電磁銃よりも口径が大きくなっていた。


「電荷へ変換する刻印を強化しました。あと、光の反発する刻印を五重にしました。そして一番の変更点は見てください!」


 ヒスイは砲身をアオイに覗かせた。


「砲身の内部に螺旋を切り込みました。これで弾丸に回転がかかり、まっすぐ遠くまで飛ぶのです!」

「ほ、ほほう…」


 アオイはよくわからなかったが、ヒスイの様子を見る限り、すごいのだろう。


「封印の解呪に間に合うように調整しますので、刻印をお願いします」


 ヒスイはぺこりと頭を下げた。


「ヒスイの魔素のコントロールはすごいなあ。こんなに精密なことができてしまうなんて…」


 アオイの言葉にヒスイは嬉しそうに笑った。


「これは唯一、私がアオイに勝てることかもしれません」

「いやいや、私の魔素のコントロールだってすごいんだぞ?」

「でもアオイは膨大な魔素をぶち込むのが基本ですよね?」


 アオイはプクっと膨れた。


「そんなことないぞ。私だって緻密なことができるんだからね」

「じゃあ、見せてください」


 アオイはしばらく考えていたがニヤッと笑ってヒスイを見つめた。それから闇の魔素を巡らせる。そして重力場を操作する。


「ふふふ、こうしてやる!!」

「ふわっっつ!」


 アオイはヒスイに重力派のマッサージを施したのだった。ヒスイは気持ち良いのか気持ち悪いのか?よくわからない施術をされ、くたくたになってしまった。




 

 次の日の朝は清々しい空気に包まれていた。湿気を帯びた空気が冷たい風を呼び、火山地帯を覆っていた。

 アオイは起きると大きく伸びをした。封印の解呪の効果は劇的で、アオイは本当に清々しい気持ちだった。


「ヒスイ!起きてよ。とても良い朝だよ!」


 ヒスイは起き上がることができず、ベッドからアオイのことをじっとりと睨んでいた。


「アオイ…。責任をとってください。私はもう起き上がることができません…」

「何言っているの。今日は3封印へ出発するんだよ」

「う、う。私は行けません…」


 アオイはベッドに張り付いてぐったりしているヒスイを無理矢理起こすと、服を着せてあげた。


「ほら、シャキッとしなよ」

「う、う。無理です。おんぶしてください…」

「もう。ヒスイはしょうがないなぁ。昨日見せてくれた電磁砲に刻印してあげるから起きてよ」


 それを聞いたヒスイはムクっと起きると、いそいそと身支度を始めた。


「アオイ、朝ごはんを食べてからでもよいですか?」


 そんなヒスイをアオイはあきれた様子で見ていた。





 α班を前にアオイは3封印へ出発することを宣言した。


「…ということで昼には出発します」

「アオイさん、僕達は今すぐでも良いけど…」


 ヒスイの様子を丘がいながら、アオイは小声で言った。


「うん。ヒスイと約束しちゃってさ。電磁砲に刻印するんだって。だからちょっと待っていてね」

「え、電磁銃じゃなくて電磁砲ですか?」


 ミカヅチが驚いている。


「うん。電磁銃よりすごいらしいよ。ああ、それと私に侍女がつくことになりました」


 アオイが手招きすると扉の影からマルシムがおずおずと入ってきた。


「マルシムです。皆さん、よろしくお願いします」

「あらあら、マルシムさん。良かったですね」


 ルカがにこやかな顔で喜んでいた。


「はい、皆さん。よろしくお願いします。」


 マルシムがちょっと緊張した様子で挨拶した。


「よし、それじゃあ昼に集合ね。私はヒスイの所にいるよ」




 

「アオイ、こことここに光の刻印をお願いします」

「はいよ」


 アオイとヒスイは二人で並んで電磁砲に刻印魔法を施していた。その様子をスサノとマルシムが並んで眺めていた。


「はぁー。ヒスイさんがどんどん遠い人になっちゃう…」

「そんなことないよ。ヒスイちゃんは頭も良いし、優しいし、冷静だし、美人だし、強いんだけど…」

「だけど??」

「アオイちゃんと一緒でちょっと天然なところがあるから、誰かがお世話してあげた方が良いと思うんだよね」


 マルシムは今までのヒスイの行動を考えてみた。


「確かに!」

「だからマルシムはちゃんとヒスイちゃんの面倒もみてあげてね?」


 マルシムはスサノの手を取ると力強く握った。


「任せて!ヒスイさん、まあアオイさんも…私が責任を持って面倒をみるよ!」


 マルシムが宣言したのと同時にヒスイが、


「できましたー!」


 うれしそうな声を出した。


「よし!じゃあ、試射をしよう!」

「はい、そうしましょう!」


 スサノとマルシムは顔を見合わせた。—————ちょっと待って…?? 昨日よりも威力が高い電磁砲の試射?? 今から? ここで?


「ちょっと待った!!二人ともちょっと待った!!」


 マルシムは慌ててアオイとヒスイを止める。


「今!ここで!!試射をしたら!!!大騒ぎになりますよ。そういうのはちゃんと通達してから試しましょうよ…」


 アオイとヒスイは顔を見合わせた。


「それもそうか…」


 マルシムは心の中で思った。


(こ、このポンコツコンビが!! これは私がちゃんと面倒を見ないとダメだ!)


 後の世で『完璧最強メイド』と呼ばれるアオイ付きメイドが誕生した瞬間だった。

 




 アオイ、ヒスイ、マルシムにα班を加えた8人は3封印を目指して出発した。四日後、アオイ達は3封印の近くの村にたどり着いた。ダスティスからの手紙を村長に見せ、拠点となる宿を確保してもらう。その日は質素ながら村長が激励会を開いてくれた。


「二日後、3封印にアタックします。マルシムはここを拠点に後方支援ね」


 マルシムは自分の実力を思い知っており、素直に従った。


「はい、アオイさん」

「でね。ちょっとしたダンジョン攻略になると思うんだ。塔の作りから考えて三日くらいかかると思った方が良いね。申し訳ないけど、マルシム。食糧と水、物資の準備をお願いできるかな?」


 マルシムは胸を張る。こういう雑務には慣れているらしい。


「任せてください!」

「他の皆は休暇!ゆっくり休んでください。あと…。村長さん。お願いがあるのですが…」




 

 次の日。マルシムは心配していた。アオイが村長に電磁砲の試射を許可してもらったからである。マルシムは、—————絶対に村長は事の重大さをわかってないよ…

と思っていたが3封印の攻略前に新兵器の威力を知っておきたい気持ちが勝ったので、黙っていた。


「皆、休みなのに良いの?」


 試射にゾロゾロと付いてきたα班のメンバーに、アオイは申し訳なさそうに言っていた。


「いえ、どんなことになるか?楽しそうですから」


 ミカヅチが答え、皆が頷く。


「それでは皆さん。ご期待に応えましょう!」


 ヒスイはそう言うと竜の魔装を身に纏った。


(な、なんじゃあれはー)


 マルシムは大いに驚いた。近くにいたマオに聞く。


「あ、あれは何なんですか??」

「ああ。あれは竜の魔装だよ」

「え!竜の魔装って『名も無き魔法戦士』が身に纏っていた?」


 マルシムはヒスイの影響でジンライ関連の制作物や事柄にやたらと詳しい。竜の魔装のことも、ヒスイがマーズ領にいた頃から、散々聞かされていたので知っていた。


「アオイさんが壊しちゃったのを、ヒスイが直して使っているんだ」

「え、え??アオイさんが使っていた?」


 そして、マオが核心へと迫ってしまった。


「うん。アオイさんが『名も無き魔法戦士』だからね。あ!内緒ね…」


(な、な。名も無き魔法戦士!!アオイさんが!!六英雄の一人!!混沌の魔人の討伐に領主達は大いに協力したそうだ。マーズ伯爵のアオイさんへの態度はそういう事か!!)


 精神的な負荷をアオイへの尊敬へと昇華させようと、マルシムが奮闘していたところへヒスイの掛け声が聞こえた。


「では、行きますよ!」 


 ヒスイは小高い小山に電磁砲を向けた。


「耐熱性を付与した弾丸を装填します。耐熱性を付与しないと弾丸が燃え尽きてしまいますので。そして、魔素を電荷へと変換します。電磁銃の約三倍の爆発力を付与しました。発射された弾丸は五重の光の刻印により加速されます。この時、銃身に刻まれた螺旋の溝によって弾丸は回転し、真っ直ぐに目標にとびます!」


 早口でしゃべるヒスイにマルシムは圧倒された。


「発射!!」


 バチバチという音とともに弾丸が発射された。凄まじい衝撃とともに!弾丸は空気を貫きながら先の小山へ着弾した。凄まじい閃光、そして爆音、それからの衝撃波!


「おおお!」


 電磁銃の試射の時よりも三倍はすごい衝撃に皆は驚いていた。小山に大きなクレーターができていた。


「むふふ。これでどの封印も怖くないです!」


 ヒスイの言葉は頼もしかったが、マルシムはあまりのスケール感に放心してしまった。マルシムよりもかわいそうだったのは村長で、『神の怒りにふれた』と騒ぎ出した村人をなだめるのに必死だった。


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