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39:白状します……

 ハインリーとアルシオは馬車の扉から入ってきて、二人ともメーテルの向かいに座った。


「メーテル。話の続きを聞かせてもらおうかな……アルシオ、君も一緒に聞いてほしい」


 馬車に乗り込んだハインリーの言葉に、メーテルはぐっと体に力を入れる。


(今のところ、正体がばれているのは私だけですよね?)


 アルシオのことは隠し通せているはずである。たぶん。

 何故、彼までここに呼ばれたのかはわからないけれど……。


(せめて、アルシオさんへの被害が大きくならないように受け答えしなくては……)


 しかし、メーテルより先に、アルシオが口を開いた。


「詰みだな。俺の負けだ」

「えっ……?」

「メーテル、すまない。今朝、兄上に全部バレた。事情も話した」

「そ、それって」


 建国祭やエルロンとの外出の際、メーテルがベツィリアを演じており、アルシオが本物のベツィリアだと知られてしまったという意味だろうか。


「……そういうことだ」


 言いたいことの意味が通じたという風に、アルシオが頷く。


「ええっ!? そ、そんな……」


 ハインリー様の、相手を問い詰める力は、アルシオ相手にも有効らしい。


(アルシオさんが同行していたのって、そういう理由?)


 彼を呼んで、メーテルにも自白させるつもりだったのかもしれない。


(馬車の中でハインリー様に質問されて、とても焦ったのですが……まさか、全部わかった上で、尋ねていらしたとは……)


 下手な言い訳をしても、全部無駄だったのだろう。


「本当は、メーテルの口から真実を聞きたかったのだけれど。途中で邪魔が入ったからね」

「う……そうですね……」


 もう、メーテルが言えることは一つしかない。


「ハインリー様、嘘をついて申し訳ありません! 本当は私がベツィリア様を演じていたんです!」


 深々と、彼に向かって頭を下げる。


「うん、アルシオに頼まれたんだよね。自分の代わりにベツィリアになってほしいって」


 本当に、全部バレているようだ。白状して頷く。


「……はい」


 ずっと彼を騙していて心苦しかった。

 でも、もう何も偽らなくていいのだ。

 悪いことをした身で、こんなことを思ってはいけないが……少しだけ、心が軽くなった。


「あ、あのハインリー様、怒っていらっしゃいますか?」


 ハインリーは優しげな微笑みを浮かべながらゆっくり口を開く。


「うん。僕は悲しいし、怒っているよ」


 ……笑顔なのに言葉が不穏。

 だが、メーテルに彼をどうこう言う資格はない。どう考えても自分が悪いので。

 こうしてハインリーが会話してくれるだけで奇跡だ。


「私たちは罰されるのでしょうか」

「どうして?」


「え、だって……私は王族を騙ったのですよ? 騎士の娘に過ぎないのに、王女様のフリをしたんです」

「そうだね」


 ただ、肯定して頷くだけのハインリー。

 彼が何を考えているのか、メーテルにはよくわからなかった。


「でも、君が変装したベツィリアは、僕の命を救ってくれた。さっきだって、メーテルは僕を助けてくれたよね?」

「はい、ですが……」

「普段だってそう。今日も荷物に潜んでいた毒蜘蛛を退治してくれていたし、前には毒蛇も退治してくれた。僕が把握できていないだけで、他にも守ってくれたことがあるかもしれない」


 驚いて、メーテルは黙り込む。


「だからね、メーテル」

「……」

「これは、ここだけの話にしておこう」

「それって……」


 まじまじと、メーテルはハインリーを見つめた。

 ハインリーが深く頷く。


「君は罰されない。ベツィリアの秘密も漏れない」

「ですが、それではハインリー様まで共犯に」


 ベツィリア王女の秘密を共有するということは、もし判明したときには、彼も一緒に咎を背負わなければいけない立場になるということだ。

 場合によっては、危険に巻き込まれてしまうだろう。


「うん、これで僕も仲間だね」


 巻き込まれてしまった側なのに、ハインリーはどこか嬉しそうだった。


「それで、アルシオ……いや、ベツィリア」


 さっきとは打って変わった、やや厳しい声で、ハインリーはアルシオに告げる。


「今朝提示した条件は呑んでくれるかい?」


 何の話だろう。メーテルは首を傾げつつ、アルシオを見る。


(条件とは……?)


 すると、アルシオは不満そうな表情を浮かべながら頷いた。


「ああ。これまで中立だった第一王女ベツィリアは……以後、第一王子ハインリーの陣営に与する。これで満足か?」


 ハインリーは穏やかに微笑んで告げた。


「ありがとう」

「……ってか、そう言うしかないだろ。兄上に命を握られているんだぞ、俺は……!」


 アルシオの言葉に、ハインリーは困ったような表情を浮かべる。


「あのさ、メーテルの前で、あまり人聞きの悪いことは言わないでくれるかな? 彼女が僕を怖がってしまうかもしれないだろう?」

「メーテルは俺より強いし、迷いなく毒獣の脳天をかち割る女だから大丈夫だ」


 そのとおりだったので、メーテルは無言を貫いた。


(いろいろと淑女らしからぬ行いをしてしまいましたし……)


 侍女になったら、おしとやかに振る舞おうと決めていたのに、それがなかなか難しい。

 淑女への道は、まだまだ険しそうだ。


「それで、犯人はわかったのか?」


 アルシオがハインリーに問いかける。ハインリーは軽く頷いた。


「うん。さっきの毒獣を見てピンときたよ。あとさ、もう犯人は捕まえてあるんだ……」

「……?」


 ややあって、外にいた騎士が細身の男性を一人連れてくる。

 灰色のフードを被っているので、襲撃者たちの一人だ。

 騎士がハインリーの前で、彼のフードを下ろした。すると……。

 なんだか見たことのある顔が出てきた。


(誰でしたっけ?)


 考えていると……メーテルより、アルシオが先に反応する。


「お、お前! ……ソワレ!」

「えっ!? ソワレ様!?」


 その名前は、第三王子のものだ。

 メーテルもベツィリアに扮していたとき、彼に会ったことがある。

 大人しい印象の王子だと思っていたが、そんな彼がどうしてこのような危険な場所にいるのだろう。

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