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38:毒獣も襲撃者もお掃除します!

 戦闘中の味方に向かって、メーテルは声を掛ける。

 王都の騎士は辺境ほど、毒獣と闘い慣れてはいないようだから、情報を共有したほうがいいと判断したのだ。


「首や心臓を! 狙ってください! 生体機能が止まれば、毒獣は動かなくなりますから! その後、速やかに瘴状菌の焼却を!」


 素早くアルシオを狙っていた毒獣に近づき、その脳天に棒を振り下ろす。

 毒獣はたたらを踏んでよろめいた。


「メーテル!?」


 驚きつつも、アルシオはすかさず剣で毒獣の心臓のある場所を貫いた。

 なかなか正確だ。毒獣はすぐさまドォンと地面に倒れて動かなくなった。


「ナイスです、アルシオさん」

「……セバスチャンに剣を習っていてよかった……毒獣、怖すぎる……」


 アルシオの顔色は悪い。


「毒獣退治は初めてでしょうけれど。なかなかセンスがありますよ」

「嬉しいような嬉しくないような……。それにしても変だな。王都付近には毒獣なんてほぼ出ないのに……」

「詳しいお話はあとでしましょう。他の個体も倒します」


 倒れている騎士の剣を借り、メーテルは素早く、他の騎士や見知らぬ人々を襲おうとしている、残り二匹の毒獣に近づく。

 飛び上がり、体をひねらせ、上から順番に心臓を差し貫いた。

 ドォンと音を立てて、毒獣が土の上に倒れる。


「すごいな、メーテル……」

「慣れていますので。このくらいの大きさでしたら楽勝です。……また淑女らしからぬことをしてしまいましたが」

「王都の騎士として堂々と勤務できるレベルだ」


「そうなのですか。あの、あちらにいる知らない方々は一体……?」

「急に襲ってきたんだよ。毒獣を引き連れてな」

「引き連れる? 毒獣は人間の言うことなんて聞きませんよ?」


「ああ。捕らえた個体を拘束して荷馬車でここまで連れてきたようだ。この場所で解放して、こちらを襲わせるつもりみたいだったが、案の定、俺らもそいつらも見境なく襲われた」

「……毒獣ですから、まあそうなるでしょうね」


 この辺りの人には、毒獣の生態に関する知識がないのだろうか。


「ところで、ハインリー様はどこに……?」


 きょろきょろとあたりを確認すると、馬車から離れた場所で別の毒獣と応戦していた。

 瘴状菌が全身に広がった、ひときわ大きなトナカイが、前足を大きく上げて、襲撃者と交戦中のハインリーに襲いかかろうとしている。

 ハインリーは、運悪く襲撃者と毒獣の両方を相手取らなければならない事態に陥っていた。

 護衛たちは既に毒獣に蹴散らされて、近くでひっくり返っている。


「毒獣、もう一匹いたんですね!」


 メーテルは大急ぎでそちらへ走る。

 アルシオも後ろからついてきた。


「ハインリー様!」

「メーテル!?」

「伏せて!」


 指示に従い、咄嗟の判断でしゃがんだハインリーの頭上を飛び越えたメーテルは、その勢いで毒獣の喉笛を大きく切り裂いた。

 すかさず、立ち上がったハインリーが、正面から毒獣の胸に剣を突き立ててとどめを刺す。

 迷いのない剣筋だった。


(戦闘に慣れていらっしゃる……?)


 大きなうなり声を上げながら、毒獣はドサリと倒れて動かなくなった。

 残る襲撃者も、ハインリーは迷いなく順に倒していく。

 毒獣と両方を相手取るのは厳しかったが、襲撃者だけなら優勢だ。


(あの人たちはやっつけてよいみたいですね)


 メーテルも加勢し、ハインリーを助けた。

 事情聴取が必要かもしれないので急所は外し、剣の側面ではなく表面でたこ殴りにする。

 その一方で、近くにいたアルシオに指示を出した。


「アルシオさん、急いで瘴状菌を毒獣ごと燃やしてください。熱で滅菌できますから」


 瘴状菌の処理は速さが命だ。

 近隣住人の多い王都付近の森に毒獣が増えると面倒なことになる。


「わ、わかった……!」


 頷くと、アルシオは急いできびすを返し、手の空いた他の騎士たちの協力を仰いでいる。

 毒獣の処理をアルシオに任せられたので、メーテルは心置きなくハインリーを守れた。

 一人ずつボコって鎮めていく。

 すぐに全員を倒すことが出来た。


「ハインリー様! ご無事ですか!?」


 戦闘を終えた他の騎士も駆け寄ってくる。


「ああ、うん。僕は大丈夫。ところで、メーテル……」

「すみません、ハインリー様。先に毒獣の処理を手伝ってきます。お話はそのあとで」


 残りの騎士たちがアルシオとともに、毒獣の処理に勤しんでくれている。

 しかし、巨大なのが四頭もいるので、手間取っていた。

 さらに、森の木を利用して薪を作ってはいるものの、乾燥した枝が少なく燃えにくいようだ。


「この近くに集落は?」

「目的地の手前、少し先に小さな農村が……」

「では、薪を多めにもらってきてくれるかい? 買い取ると伝えて。あと、王宮から増援を呼んでくれるかい? 隣の領地への連絡も頼むよ」

「はっ!」


 三人が馬に乗って集落や隣の領地のほうに、二人が城のほうに走って行った。

 メーテルは先に手早く怪我人の手当を済ませていく。

 傷口を水筒の水で洗い流したり、布で縛って出血を止めたり、折れた骨を正しく固定したりという応急処置だが、何もしないよりはいいはずだ。


 それを終えると、立ち枯れている木の細い枝や、シダ系の木の枯れ葉を集めていく。

 普通の木より乾燥しているので燃えやすい。


(いつも使っている箒などがあれば、大変燃えやすかったのですが……)


 ないものは仕方がない。

 やれるだけのことをして待っていると、すぐに追加の薪と増援が来た。

 あとの燃やす処理は騎士たちがやってくれるそうだ。


 メーテルはひとまず休んでいるよう言われ、馬車に戻る。

 あんな姿を見せても、か弱い女性として扱ってくれているみたいだ。


(これが、侍女服の効果……)


 しかし、お気に入りの侍女服には、毒獣などの返り血が飛んでしまっていた。


(洗濯で、落ちればいいですけど)


 気になるところである。

 開いたままの馬車の扉から外を見ていると、ハインリーとアルシオが揃って歩いてきた。

 同時にメーテルは、ああ、もう隠しごとはできないと覚悟を決めた。

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