36:お出かけ中に身バレしそうです
執務室を出て、廊下を進み、外へ出て、王宮の門のほうへ歩いて行く。
門の手前にはもう既に、馬車が待機していた。
その周りには、ハインリーを護衛するための騎士が二十人ほど、馬に乗って出発を待っている。準備万端という感じだ。
(あら、あれは……)
メーテルは、護衛の騎士たちに交じっている、よく知る人物を発見する。
「アルシオさん……?」
彼もまた、馬に乗って騎士たちに交じっていた。
「あの、アルシオさんも一緒なのですか? ベツィリア様の騎士ですのに」
何故か、ハインリーはじっとメーテルを見つめ、少し間を置いたあとに告げた。
「ベツィリアにも、何か王族の役目をと思って、名前だけ貸してもらうことにしたんだ。彼女の実績になるから、後々役に立つはずだよ」
「なるほど?」
「ただ、病弱なベツィリアを外に出せないから、代わりに騎士の彼に来てもらったんだ」
アルシオはちょっと困った表情を浮かべている。
断り切れなかったのだろう。
(ハインリー様の説得を受け流すのは至難の業ですからね)
近くで彼の仕事を見る機会の多いメーテルは、彼に言いくるめられた人々をたくさん目にしている。
先輩侍女たちを皮切りに、城内で働く人々や果ては大臣たちまで、ハインリーと話をしているうちに、最終的に彼の望み通りに動かされてしまっているのだ。
(でも、ハインリー様、ベツィリア様に良くしてくださるんですね。なのに私は、ハインリー様のご厚意を無下にするような真似を……)
彼を騙していることで、心が痛む。
(私はアルシオさんを助けたくて、必要とされるのが嬉しくて、ついでに可愛いドレスに憧れて、影武者を引き受けましたけれど……どうするのが正解だったのでしょう)
あちらが立てば、こちらが立たない。
メーテルは迷いながら馬車に乗り込んだ。
※
馬車はゆっくりと動き始め、徐々にスピードを上げて街中を進んでいく。
敢えて人通りの多くない道を選んでいるようだ。
護衛の騎士たちも、馬車を囲むようにして先へ進んでいた。
馬車の中、メーテルの席はハインリーの向かい側だ。他に乗客はいない。
「こうして出掛けるのは初めてだね」
「は、はい。外でのお仕事は初めてですので、緊張します」
「難しい仕事じゃないから大丈夫だよ。洪水対策関連で、隣の領地に顔を出すだけだから。メーテルは軽い荷物や書類を運んで欲しい」
「はい!」
今日の仕事は重労働でも汚れるような作業でもないようだ。
道中は順調で、早くも馬車は王都を出て郊外の街道に差し掛かっている。
この先の森を抜ければ隣の領地。
比較的近い場所なので、お昼までには到着できそうだ。
「それでさ……」
軽い調子で、ハインリーは話を続ける。
「ベツィリアの正体って、メーテルだよね」
「……!」
時が――止まった気がした。




