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35:王子様はモサモサ眼鏡をご所望です

 風邪が治って、メーテルは無事仕事に復帰した。

 相変わらず、ハインリーの私室や執務室を行き来し、仕事をこなしている。


 今は執務室で、部屋の隅に詰まれた様々な荷物の開封作業をしていた。

 仕事関連のものから、贈り物まで様々な箱が置かれている。


 ハインリーは「危ないから、あとで僕がするよ」などと言っていたが、王子がする仕事ではない。

 それで彼に何かあれば本末転倒だ。


 なので、メーテルが自主的にやっている。

 この日も、荷物の箱の中身はバラエティー豊かだった。


「針、毒蜘蛛、刃物、怪しげな薬、藁人形、ハート型のチョコレート、長文の恋文……」


 メーテルはそれらを退治したり、捨てたり、仕分けしたりしていく。

 前回は毒蛇退治にハインリーのペンを借りたが、さすがに申し訳ないので……はたきの柄で退治をしている。

 すると、部屋に戻ってきたハインリーに声を掛けられた。


「メーテル、調子はどう?」


 彼はすぐ傍で立ち止まり、やや心配そうにメーテルを見る。


「すっかり元気です」

「それはよかった」

「お見舞いの品をありがとうございました」

「うん……」


 ハインリーは微笑むと、その場で軽くメーテルの片手を取った。

 目撃した他の侍女の口から「キャー」と悲鳴が上がる。


「ちょっと外出に付き合ってほしいんだけど」


 メーテル!は、驚いて顔を上げた。


「え、私がお供して……よろしいのですか!?」


 こんな仕事は初めてだ。

 普通はベテラン侍女の担当なので、先輩侍女を差し置いて行っていいものか戸惑う。

 話を聞いていた、他の侍女たちの視線も痛い……。

 すると、案の定、聞き耳を立てていた侍女長が真っ先に鋭く反応した。


「ちょっと、モサモサ眼鏡! 一番新人のくせに、ハインリー様の外出に付き添うなんて生意気よ! 何考えてるのよ!」


 少し離れた場所から、こちらを睨んでくる侍女長に、他の侍女も追従する。

 彼女たちも、しっかり聞いていたようだ。


「そーよ、そーよ、侍女長様を差し置いて、何様のつもり?」

「モサモサ眼鏡のくせに!」

「あんたに務まるような仕事じゃないのよ!」


 言葉での攻撃が半端ない。


(……ですよね~)


 しかし、ハインリーがそれを遮る。


「メーテルを指名したのは僕だよ。代わりに君が来てもいいけど、彼女の代わりに重労働をしてくれるのかい?」

「……重労働!?」

「うん。治水工事の現場視察だから、服が汚れるような作業もあるよ……?」


「ふ、服が汚れるですって……!?」

「ひいっ……!」

「嫌ですわ、不潔ですわ」


 他の侍女たちは、重労働も汚れるのも嫌みたいだ。

 誤魔化すように、侍女長が引きつった顔で微笑む。


「……お、おほほ。メーテルさん、頑張ってきなさい」

「…………はい」


 とりあえず、他の侍女たちは、メーテルの外出に納得したようだった。


「じゃあ、行こうか、メーテル」


 にっこり微笑むハインリーが軽い調子で言う。


「お、お供いたします」


 メーテルはいそいそと彼の後に続いた。

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― 新着の感想 ―
先輩侍女の皆さん方すげーな、王族の命令に横入りしようとするって不敬罪になり得るって思わないのか、それとも主人という名の獲物をぽっと出に掻っ攫われるという焦りが全てを吹っ飛ばしたのか。いずれにせよ正しい…
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