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33:完璧王子の悩み(ハインリー視点)

 幼い頃から、ハインリーは完璧な王子であることを要求されてきた。

 父は子ではなく、優秀な跡取りにのみ興味がある。

 母もハインリーが望み通りの優秀な王子として振る舞ったときのみ褒めた。

 それに完全に応えることは難しいが、近づくことはできたので、常に自分を律して国の役に立つよう動いてきた。義務に縛られた空虚な人生だ。


 しかし、特にそれを悲しいとも嫌だとも思わなかった。

 そういう意味、たまたま王子という仕事に向いていたのかもしれない。

 国王の役に立てば立つほど、命を狙われるようになったのは皮肉だが。


 本当に、王宮では命を狙われることが多々あった。

 ハインリーのほかにも、立て続けに数人の王子が生まれたからだ。

 要するに、次の王位争いである。

 妃たちも王子立ちもいがみ合っていたが国王は素知らぬ顔。


(王女のベツィリアは、他の者とは違うようだけれど……どうして僕を守ってくれたのかは未だにわからない)


 国王が王子たちに求める優秀さには、「生き残ること」も含まれている。

 だから、敢えて、諸々の争いを黙認しているのだ。


(無茶を言う……)


 母は仕事に忙しく、ハインリーに対しては「自分の身くらい、自分で守れますよね?」というスタンスだ。

 他の王子と比べ、ハインリーには守ってくれるべき母親がいない。

 だから、自分で知恵を絞って、一人でも多く周囲を味方に付けて生き延びるしかなかった。信用できる人間も多くはない。一時たりとも気が抜けない。

 常に「存在する価値がある」と、周囲に認められなければならなかった。

 でないと、ハインリーを守る者はいなくなり、ここで生きていけなくなる。


 攻撃を受ければ報復する。相手によっては寝返らせる。

 打算で近寄ってくる人間は利用する。

 けれど最近、少しずつ、第一王子としての生き方に疲れてきた。


 そんなハインリーの生活の、数少ない癒しがメーテルだ。

 侍女を志して応募してきた、騎士の娘という経歴の持ち主だ。

 普通、そういう娘はわざわざ王都まで来ず、領主の家で侍女をするものである。


 推薦者が北の辺境伯家の者ということで、とりあえず面接の許可を出した。

 まだどの勢力も手つかずな、イレイネス領の者を味方に引き入れたかったから。

 あそこの軍事力は侮れない。

 他の妃や王子に利用される前に押さえておきたかった。

 ハインリーは注意深く、彼女を推薦する書類を確認した。


(推薦者は一応辺境伯の名になっているが、実際に動いているのはそこの七男のようだな)


 イレイネスの者はなんというか、話が通じない脳筋が多い。

 だが、この七男は話が通じるようだった。

 スムーズに話は進んで、メーテル自身にも問題はなかったので、ハインリーは彼女を自分付きの侍女にした。

 当初、彼女自身については、そこまで重要視はしていなかったのだ。


 メーテルはよく働く侍女だった。

 しかし、彼女は今日、体調を崩して仕事を休んでいる。

 風邪をひいたらしい。


 朝から夕方まで働いたが、メーテルがいないせいで埃は溜まるし、書類も溜まるし、未開封の荷物も山積みになっている。

 働かない侍女を退勤時間に追い出し、書類と荷物の開封を自力でやった。そのほうが早いからだ。


(……そんなことより、メーテルがいないとなんだか味気ないな)


 どうも自分は、彼女を自分の味方で必要な相手だと認識しているらしい。

 自分のために働いてくれる人間は大勢いるが、ハインリーは他人の打算が見えてしまう。

 そういう相手はすぐわかった。


 次に多いのはハインリーを盲信するタイプだ。

 自分の何らかの行動に一方的に感銘を受けて好意を抱き、以降は何をやっても全肯定して追従する。

 これはこれで気味が悪い。


 残りは冷静にハインリーの実績を評価して付いてきてくれる者たちだ。

 だが、彼らの力を得るには、常にそれに相応しくあらねばならない。つまり重い。


 メーテルはそのどれとも違った。

 侍女として採用したことに感謝しているようだが、盲信しているわけではなさそうだ。

 ただ純粋に上司として好いてくれている。

 特にこだわりもなく、飄々としていながら仕事は完璧にこなし、なんなら送られた荷物に紛れていた毒蛇を退治するなど、自主的にハインリーの身を守ることまでしている。

 他の侍女は、危険だからと荷物の開封作業を嫌がるというのに。


 だから、これまでは開封作業が溜まりがちで、ハインリーが対処することが多かった。

 けれど、あのあとも、メーテルは開封作業をしてくれているようだし……無理はしないでほしいと思う一方で、彼女には感謝しかない。


 そのほか、執務室を荒らそうとした第二王子のカイルも一人で追い払ったようだ。

 第二王子が執務室に来ていると聞いて、慌てて執務室へ行ったときの、ケロッとしたメーテルの表情は印象的だった。彼を脅威だとも思っていないらしい。

 なんだか、今までハインリーが出会った人間とは根本的に違う何かを彼女は持っている。


 あの事件は、結局侍女の中に内通者がいて、カイルの侍女に情報を流していたようだ。

 悪気なく、自慢話として、ハインリーのスケジュールや、自分たちが街へ出掛けることなどを漏らしたらしい。

 その侍女はもちろんクビにした。

 本来なら厳罰に処するところを、彼女の父親の顔を立てて内密にクビだけで済ませた。

 侍女の父親は娘の不始末を許したハインリーに恩を感じ、これまで以上に尽くしてくれるようになった。


(それはさておき、メーテルが心配ですね)


 彼女は故郷を出て一人で働きに来ている。そして王宮内に親しい者も少ない。

 何か困っているかもしれない。


(様子を見に行くべきか、お見舞いの品を届けるべきか……)


 直接会うのは、避けるべきだろう。

 誰だって、自分の弱っている姿は見られたくないはずだ。


(侍女の宿舎で働くメイドにでも様子を尋ねてみましょうか)


 基本的に侍女は貴族や準貴族の令嬢がなるものだ。

 王都にある家から通う侍女もいるが、そうでない者は王宮の一角にある侍女用の宿舎で生活している。

 大抵の侍女は家から使用人を連れてきたりしているが、一応王宮側でも平民のメイドを配置している。

 メーテルの休みの連絡も、彼女たち経由でハインリーのもとまで届けられた。


 そういった者に、メーテルの様子を尋ねればいい。

 ハインリーは侍女の宿舎まで足を運ぶことにした。

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