31:兄同伴デートだなんて聞いてない(エルロン視点)
エルロンは有力な侯爵家の一人息子だ。
幼い頃から何一つ不自由することはなく、明るく活発な性格もあって、周りから愛されて育った。
父からは「自慢の息子だ」、母からは「理想の息子よ」、使用人たちからは「仕え甲斐のあるお坊ちゃんです」と言われていた。
そんなエルロンにもただ一つ、ままならないことがあった。婚約者のことだ。
幼い頃に決められた、ベツィリア王女との婚約。
年齢的にちょうどいいだろうということで、父が王家から押しつけられた。
正直、侯爵家にとっては迷惑な話だった。
ベツィリア王女は病弱で、あまり離宮から出てこない。進んで誰かに会うこともしない。王宮での立場も強くない。
体が弱いから、跡取りだって産めるかわからない。
仮に彼女が子を産んでも、将来王家のゴタゴタに巻き込まれるかもしれない。
要するに、ベツィリアは不良物件以外の何ものでもなく、侯爵家は望まない形でそれを押しつけられてしまったということだ。
とはいえ、王家側もまさか、ベツィリアの病状が悪化し、離宮から出られなくなるなどとは思っていなかったのだろう。
家の断絶を憂う父に、さすがの国王も申し訳ないと思ったのだろう。
彼だって、我が家を敵に回したくはない。忠義の厚い侯爵家を潰したいわけでもない。
比較的穏便に、速やかに、婚約は解消の流れになるはずだった。
なのに、建国祭でベツィリアを見て、エルロンの決意は揺らいでしまった。
彼女は儚げで美しくて、一瞬でエルロンを魅了した。
「か、可愛い……!」
正直に言うと、ベツィリアはエルロンの好みのど真ん中だったのだ。
彼女の向こう側がキラキラ輝いているように見える。
(俺には勿体ないほどの美人……!)
性格も大人しく、結婚相手として悪くはなさそうだ。
どうして、今まで自分は彼女のことを「面倒で厄介な婚約者」等と思っていたのだろう。
なんで、一度も合おうとしなかったのだろう。
(俺の愚か者~~~~!)
エルロンはガンガンと、壁に頭をぶつけたくなる衝動に駆られた。
(めっちゃ美人じゃないか、それに、こんな薄情な俺に会いに来てくれるなんて健気じゃないか!)
まだ手遅れではないはずだ。エルロンは決意した。
(謝ろう。そして、一からちゃんとやり直そう)
自分たちの婚約はまだ解消されていない。
ベツィリアだって、将来のことを考えれば、エルロンとの婚約を解消されたくはないはずだ。
(まだ間に合う! 歩み寄れる!)
そうして、エルロンはベツィリアに手紙を書き、再び会うことを(一方的に)約束した。
彼女の離宮へ赴き、当初の予定とは違うものの、外へ連れ出すことに成功する。
(やったぞ)
ここまではよかった。しかし、彼女の騎士まで同行することになった。
不満だが、万一のことを考えると仕方ない。彼にだって王女を見守る責任があるのだ。
エルロンは納得した。
だが、まだしても予想外のことが起こった。
出掛けようとしたら、第一王子のハインリーが離宮にやって来たのだ。
予定にないことだったらしく、ベツィリアや彼女の騎士も驚いている。
「昨日は無理をしたんじゃないかと思ってね」
「いえ、そんな」
「ともかく、ベツィリアのおかげで助かったよ。ありがとう……」
そうして彼は、ベツィリアに見舞いの品を贈る。
温かい上着などの布類を始めとし、負担にならない程度の日持ちのする菓子類、メイドや騎士たちへ向けてのプレゼントまである。
(くそ、完璧だ。さすがハインリー様!)
なんだか、いろいろ負けた気がする。
(しかし、これから巻き返す!)
だが、ここでさらに予想外のことが起こった。
「ベツィリアはこれからどこかへ出掛けるのかな?」
彼女の侍女たちが、外に出る準備をしていたからだろう。
ハインリーが目ざとくそれに気付いた。
「王宮の外に出て、近くをお散歩に……エルロン様にお誘いいただきました。王宮のすぐ近くなら、何かあっても対処できるだろうと」
「ふぅん」
何故か、ハインリーに責められるような視線を向けられる。
(怖い怖い怖い、こっちを見るな)
エルロンはただ、城の外で伸び伸びと、ベツィリアとデートをしたかっただけなのである。
他に意図なんてない。
「それじゃあ、僕も行くよ。心配だし」
(はぁっ……!?)
何が悲しくて、兄同伴でデートしなければならないのだ。
(もしやハインリー様、空気を読めないお方なのか……?)
これまで、彼が特にベツィリアと仲良しだという話は聞いたことがないが。
じっと彼を見ると、敢えて空気を読んでいないような雰囲気が感じられた。
(あれか。今まで妹を放置していた婚約者が、いきなり妹を外に連れ出すと知っての心配なのか)
確かに、エルロンに非がある。心配されても仕方がないのかもしれない。
(でもデートの邪魔はしないでほしい!)
複雑な心境だった。
そうして、結局、王宮の外での散歩に、何故かハインリーまで同行することになった。




