30:王女の婚約者は強引です
「やあ、ベツィリア様。建国祭ぶりですね!」
玄関先に巨大な花束を持ったエルロンが現れた。後ろには彼のお付きの人々が、少し離れて立っている。
(こ、これは……)
メーテルは驚きながらも、事前に打ち合わせたとおりのベツィリアを演じた。
「はい……わざわざ来ていただき、ありがとうございます。どうぞ、中へ……」
大丈夫、乗り切れる……と、心の中で冷静に考えつつ、彼や従者たちを離宮の居間へ案内する。
エマやセバスチャンが、もてなしの用意を始めた。
すると、居間に到着したエルロンは、予想外の提案をしてきた。
「本日はお庭で散歩ということですが。軽く外を出歩けるのであれば、俺、もっといいプランを考えたのですよね」
「……プラン?」
目を丸くしながら問い返す。
「ええ、城の外に出ましょう!」
メーテルもアルシオもエルロンの人となりを、まだきちんと理解できていなかった。
(ええっ!?)
密かに焦るメーテル。
それは困る。アルシオの計画が崩れてしまう。
「いけません、エルロン様。ベツィリア様の容体が悪化するかもしれません」
すかさず、アルシオ本人が口を挟んだ。
だが、エルロンには響いていないようだ。
「大丈夫! そのためのプランだから!」
元気よく言葉を返される。
「……と言いますと?」
メーテルは警戒しながら、エルロンから詳細を聞き出そうとした。
彼は快く答えてくれる。
「つまり、今日の予定は医療ツアーです! 思えばベツィリア様は王宮内で放置されている身。よい侍医が付くわけがありません」
ばっさりと、事実を口にするエルロン。
(ひぇぇ……直球です……)
メーテルはアルシオに遠慮して言葉を濁した。
「ええと、それは……そんなこともないと思いますけど」
しかし、エルロンは気に留めずに話を続ける。
「国王陛下やお妃様方は、それぞれ信頼の置ける医者を雇っております。しかし、ベツィリア様の病は未だ治らず……」
「こ、これは、元々体が弱いのです。殿お医者様に診ていただいても結果は変わらないと思います」
「それがいけません」
(えっ……)
エルロンは、結構グイグイ来る。
「ベツィリア様は本当によい医師を知らないのです。そこで、我が家の侍医を紹介しようかと」
(それは困ります~)
メーテルが超健康体であることがバレてしまう。場合によっては、替え玉だということまで見抜かれてしまうかもしれない。
そうなれば、アルシオは終わりだ。
(ど、どどど、どうすれば……)
助けを求めようと、メーテルはアルシオをチラ見した。
アルシオは頷き、メーテルに代わってエルロンに告げる。
「エルロン様、お申し出は大変ありがたいのですが、いくらなんでも急すぎます。ベツィリア様も心の準備が出来ておられませんし、うちの侍医もいい顔はしないでしょう」
「そうかなあ」
「そうなんです。そもそも、ベツィリア様は外へ出たこともない。心理的な負担が大きすぎます」
メーテルはとりあえず、アルシオに同意するために「うんうん」と頷いた。
これでなんとかなりそうだ。
「ですので、庭を散歩するだけに……」
しかし、エルロンはアルシオの言葉を遮る。
「では、少しだけ王宮の外を散歩しましょう。遠くへは行きません。門のすぐ外だし、馬車なら一瞬だ」
強引だ。遠慮なしにグイグイ来る人だ。
(どうしましょう。私には、彼の提案を断る理由が思い浮かびません)
焦ったメーテルは再び、ちらりとまたアルシオに視線を送る。
「…………」
ここが妥協点だと、アルシオも想ったのだろう。
彼は渋々頷いた。
「……わかりました。しかし、俺も同行いたします。ベツィリア様に何かあった際の対処を一番心得ているのは自分ですので」
「二人きりでデートできないのは残念だが……仕方ない、そこは妥協しよう」
意見がまとまり、本日の予定が決まる。
そうして、メーテルたちは馬車で王宮の外へ出掛けることになった。




