29:再び身代わりを頼まれました
「すまない! メーテル、助けてくれ!」
帰り道、建物を出たメーテルは、そこでアルシオに捕まった。
「……どうかされましたか?」
再び話せるのは嬉しいけれど、彼は何か困っている様子だ。
「昨日の今日でこんなことを言うのは、大変心苦しいのだが……どうかもう一度、王女ベツィリアになってはもらえないだろうか?」
「……ベツィリア王女に?」
「エルロンが、婚約者が来るんだ……!」
「まあ……!」
思わず、両手で口元を覆う。
驚きながらも、メーテルはアルシオに詳細を尋ねた。
「何がどうなって、そんな事態に……? いつもの『ベツィリア様がご病気』という言い訳は使えませんか?」
「昨日、晩餐会であれだけのことをやったあとだ……王宮で『ベツィリア復活説』が流れている。ここで無理に『会わない』なんて言ったら、侯爵家の心証が悪くなってあとが厄介になるかもしれない……あれでも一応、数少ないベツィリアの後ろ盾っぽい家になるからな」
……っぽい家という響きが悲しい。
そこまで断言できるほどの絆がないのだろう。
「なるほどです」
「あまり何もしてもらった覚えはないが、そしてそろそろ婚約解消も考えているが……侯爵家の名前だけでも力はあるだろうから、今はまだ大々的に敵に回せない」
メーテルが、ハインリーに毒を盛ろうとした犯人をやっつけた件も、アルシオがエルロンから逃げられない原因を作っていると思われる。
(わー! 私のせいです~~~~)
あの場で、なんとしてもハインリーを守りたかった。
しかし、そのせいでアルシオがピンチに陥っている。
(ここは、責任を取らなければなりません……!)
メーテルは覚悟を決めた。
「わかりました。もう一度ベツィリア様になります」
「すまない、嘘に嘘を重ねて収拾が付かなくなる前に……なんとかするつもりだ。だから……」
もうすでに収拾がつかなくなりつつあるような気もする。
「お気になさらないでください。また可愛らしい格好が出来るのも楽しみなのです」
お姫様の格好なんて、したくてできるものではない。
メーテルにとっては嬉しい体験だ。
「ありがとう、メーテル」
「それで、エルロン様は、いついらっしゃるのですか?」
「……それが……」
アルシオが言いよどむ。
「……明日だそうだ」
(急すぎです~~~~)
これは、アルシオが慌てるのも仕方がない。
「日程の調整はできなかったんですか?」
「一応、建国祭の諸々で病状が悪化したと伝えたんだが、今度は見舞いに来ると……」
「じゃあ、私は横になればいいんですかね。寝ているふりなど……」
「俺もそう思ったんだが、眠っている病人は化粧をしたり、髪を整えたりしないよな……」
「そうですねえ」
「化粧をせず、髪もそのままだと、正体がばれる可能性が上がらないか心配だ」
「確かに。でしたら、軽く庭を散歩するのはいかがですか? そうすれば堂々とベツィリア様風のドレスや化粧、髪型になれますから、私だとバレにくいかと」
「……だな。その手で行こう」
しかし、メーテルたちはまだ知らなかった。
エルロンが予想の斜め上を行く、提案をしてくることを。




