27:想定外の新たな危機(アルシオ視点)
メーテルを見送ったアルシオは、居間の椅子に腰掛ける。
すると、そこに侍女のエマがやって来た。
彼女も今日は裏方として忙しく働いていたのだ。
ベツィリアに化けるメーテルの化粧や髪のセット、ドレスの着替えを手伝ったりなどだ。
「お疲れ様でございました。ベツィリア様」
「俺は大したことはしていない。全部メーテルのおかげで上手くいった」
これで、もうしばらくは問題なく生きて行ける。
(無力だな、俺は)
未だにこんなことくらいしかできない。かといって、不用意に動くのも怖い。
(そして、情けない奴だ)
前にも後ろにも踏み出せない。昔からずっとそうだった。
葛藤するアルシオに、エマがそっと封筒を差し出した。
「ベツィリア様、エルロン様からのお手紙を預かりました……」
「エルロンが?」
なんとなく嫌な予感がして、急いで中身を確認する。
すると、予想どおり、手紙にはとんでもない内容が書かれていた。
『俺が間違っていたよ。許してくれ、愛しているんだ。会いたい……いや、離宮へ会いに行く』
そんな感じの内容を見て、アルシオは目を見開く。
「はぁぁぁっ!?」
なんだこれは。今頃になって、どういう風の吹き回しなんだ。
彼の身勝手さに怒ることはないが、ただ厄介なことになったと困惑する。
「あいつ、やっぱりメーテルに惚れていたな……」
建国祭のパーティーで、なんだか嫌な予感がしていたのだ。
慌ててメーテルから引き離したが、やはり彼女のことを忘れられなかったようだ。
(美人だもんな)
変わったところもあるが、アルシオもメーテルのことは魅力的な異性だと思っている。
(いい奴だし……)
だから、エルロンの態度は、ちょっと面白くない。
しかし、そんなことは言っていられなかった。
アルシオの顔が、さあっと青くなる。
「……メーテルを呼びに行かなければ!」
彼女には負担をかけて申し訳ないと思う。
しかし、頼み事が終わってお礼を言ったばかりなのにとか、建国祭だけと説明しておいて再び身代わりを頼むなんてとか、そんなことは言っていられない。
(普通にピンチだ……)
嘘が発覚すればアルシオたち全員の首が飛びかねない。
頭を抱えたアルシオは、急いでエマにメーテルへの手紙を届けてもらうことにした。
侍女同士なら、手紙のやりとりも怪しまれにくい。
(それにしても、こんな事態が起こるなんて)
病弱王女ベツィリアに、身バレの危機が迫っていた。




