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本日、二回目の投稿です。

 

「おいおい、マジか!」

「お兄さん、ひとりで倒したの?」

 ワンダフルさんにわらわら冒険者たちが寄って来る。

「いや、あっちの猫族の兄さんが魔法の超一流の使い手でな。で、その隣の人族もとんでもない怪力だ」

 ワンダフルさんがケッティやアインスを指し示す。


 実際、すごかった。すばしっこい四本角鹿はいったん、足止めして背後から狙い撃ちするのが定石だが、ケッティが放った風魔法はあっという間に四本角を切断した。魔獣はぽかんと立ち尽くした後、どうと横倒しになった。

 ケッティ曰く、一本ずつ切り落としても、すぐに生えてくるので、巨大な剣で薙ぎ払うように一気呵成にやってしまう方がよいのだそうだ。


 モノクルを拭きながら淡々とそう説明されて、なるほどと頷いたソウタとユリに、ディレクさんが呆れたように言った。

「そんななあ、誰もができるもんじゃないからな?」

『この効率の良い魔法の扱い方を、アハトにも教えてあげたいものですね』

「止せ止せ。火力凄まじいあいつがそんな技を覚えたらどうする。あれ以上手を付けられなくなったら大変だ」


 そして、矢傷を負って怒りに我を忘れ、丘を突き崩したという伝説がある六本足猪である。樹に登って果物を取っていたソウタが足を滑らせて落っこちたのがその背の上だった。


 まさか。

 居合わせたみながそう思った。


 六本足猪は平常であれば、警戒の感知に引っかからない穏やかな生き物だ。しかし、いったん興奮したり怒りだしたら手が付けられない凶暴な魔獣と化す。そのときのそれは、まったくの事故だった。しかし、魔獣にとってはそんな事情は預かり知らぬことだ。のんびり歩いていたら、突然、背中になにかぶつけられたのだ。驚き、憤った。背にはまだ闖入者が乗ったままなのだが、あまりに軽く、あまりに腹を立てていたので気づかない。


 ワンダフルさんが剣を抜くよりも、ケッティが杖を構えるよりも、ディレクさんが名を呼ぶよりも速く、アインスが動いた。もはや旅の一行の安全を確保するのはマスターの指示がなくとも当然のことだった。ここにあの農場牧場に住むほかの者たちがいてもそうしただろう。


 アインスはすばやく六本足猪に近づいて、ソウタが振り落とされる前に、右手を大きく振るった。裾の隙間からするりとナイフが滑りおち、手袋に包まれた手に柄が握られ、磨き込まれた刃がきらりと陽光をはじく。硬い皮膚の最も薄く弱い部分を勢いよく切り落とす。


 ナイフの刃渡りは巨体である六本足猪の首の向こう側に到達しない。そのため、弧を描くように刃を滑らせる。肉とその奥の骨がきれいに切断され、重みによって刃が通っていない部分も千切れる。どん、と頭が落ちた。


 アインスはナイフを握っているのとは逆の手でソウタを抱き上げ、するすると後退して倒れ伏す魔獣の下敷きにならないようにした。それで、討伐は終了した。


 巨体の首を一刀のもと落としてしまえるなど、とんでもない膂力、技量である。首をしゃにむに振られては難易度が跳ね上がるのでタイミングを掴むことも肝要だ。


「俺はふたりが魔獣を倒すのを眺めていただけだった」

 しかも、どちらもあっという間の出来事だ。だが、集まった冒険者はそうとは思わず、相当な戦いが繰り広げられたものだと頭から思い込んでいた。ワンダフルさんの言葉は冗談かなにかだとばかり受け取った。なぜなら、そう簡単に倒せる魔獣ではないからだ。


「いやあ、そのうち、強制依頼で高ランクの冒険者が招集されるんじゃないかって話だったんだ」

「酒をおごらせてくれ。討伐の話が聞きたい」

「おお、ちょうど良い。今、モルレには歌姫が来ているんだよ。その歌を聞きながら飲もうぜ」

「馬ぁ鹿、歌姫の歌を聞き惚れて、兄さんの討伐の話がそっちのけになっちまう!」

「なあ、なあ、これ、この角、どうやって切ったらこんなにきれいな断面で切れるんだ?」

「すっぱり切れているなあ。伝説の剣とかなにかで切り落としたのか?」

「蹄も破損もなくきっちりそろっているなあ」


 とにかく、最近、モルレを出入りする者たちの頭を悩ませていた魔獣が二体も討伐され、憂いは晴らされた。

 冒険者ギルドで問題視していた魔獣討伐を片付けた結果、たくさんの報酬を得た。

 ワンダフルさんがケッティとアインスに渡そうとすると、ケッティは「それはパーティとして行った討伐だから、山分けだ」と言い、ディレクさんは「おう、ヒッピィに渡した分が補てんされてちょうど良かったじゃないか」と言った。アインスはマスターの言が自分の意思とばかりに黙って微笑んでいる。


「俺、討伐部位を運んだくらいしかしていないんだがなあ」

「でも、この中で冒険者なのはワンダフルさんだけだし」

「そうそう。それに、わたしとソウタの方がなにもしていないよ」

 ぼやくワンダフルさんにソウタとユリが言うと、まあ当人たちが言っているのだから良いかと分けることにした。ちなみに、魔獣の肉も解体してケッティが冷凍保存したのを手分けして運んでいる。これで当面の肉には困らない。


「冒険者のおじさんたちが教えてくれた歌姫が歌っているお店へ行く?」

「メサニアは芸術の国でしょう? フェマとフェンに可愛いお土産を買って帰りたいなあ」

「あちこち見回った方が情報が集まるだろう」

 ユリの要望をそうやって容認するケッティに、誰も異を唱えなかった。ソウタやユリが行う脱線によって、結果、いろんなことが手繰り寄せられるからだ。ワンダフルさんはそれを許容できる心の余裕があり、ケッティはそれを最近では楽しむようになり、ディレクさんもアインスも、そのお陰で今ここにいる。


「ギルドでいくつか宿を教えてもらったから、先にそっちへ行こう」

 ワンダフルさんの提案に沿って宿を押さえ、その後、各自情報収集を行い、夕方、食事を兼ねて歌姫が歌う店に集まることにした。




 最近、定番となっているケッティといっしょの行動が決まり、ソウタとユリは自分たちのお守りばかりで良いのかと心配すると、笑って否定された。

「ふたりといると面白いから」

 ケット・シーにそう言われると釈然としないものがあるが、相手はケッティだ。モノクルが良く似合う理知的なケッティは今もふたつ尾を擬装して、猫族に扮している。取り合わせとしては、猫族三人組であり、違和感なく周囲に溶け込める。


 魔道具の部品や農場牧場のみんなへのお土産を買い、細い路地を行った先にある古ぼけた本屋を見つけて物色したりした。ケッティはそこで本を二冊も買った。尾がゆらゆらと揺れていることからも、とても良い買い物をしたようだ。


「カタレアで編纂された書か」

「学ぶならカタレアって言うからね」

 ケッティの呟きに本屋の店主が反応する。ケッティは水を向けてみた。

「確か、長年苦しめられている流行り病を根絶するために広く知識を集めているんだったな」

「ずっと病みついているわけではないのさ」

 定期的に襲ってくる流行り病に、持ち直したと思ったとたん、また人口を失うのだという。


 人口が目減りするほどの猛威を振るうのだ。ソウタとユリは思わず互いの片前足をぎゅっと握り合せる。それには気づかず、店主が続ける。

「そろそろまた流行り出すんじゃないかって言われている」

「じゃあ、そこへ行かない方が良いな」

「ああ、避けておくべきだね」

 ケッティは礼を言って、身を固くするソウタとユリを促して店を出た。


「人口を失うっていうほどの流行り病って、」

「怖いね」

「ああ。国民の恐怖はいかほどばかりだろう」

 恐怖が恐怖を呼び、大きなうねりとなって他者へ牙を剥く。その向かう先に稀血の一族がいるのだとすれば。

 駄菓子屋のおばあちゃんの持つ仁楊にゃん村のはずれの家にあった手記に書かれていた追われる日々。失った者。理不尽な境遇。

 もし、それらを強いる者たちもまた、病に苦しめられた結果で、なんとか打開策を見出そうとしてのことだとしたら。あまりにも、その成り行きはむごく辛いものではないか。





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